日本人は勤勉である。それは組織への帰属意識が強いからだ──と思いこんでいる人はまだ多い。だが、日本人の勤勉さは見せかけだけ。組織にも仕方なく帰属しているだけだとしたら? 太田肇『個人を幸福にしない日本の組織』は、企業、大学、地方自治体、PTA、町内会などを例に、日本の組織に関する神話を暴き、個人を中心にした組織への大胆な改変を提言する書である。
おもしろいのは、人材の選抜法について書かれた章(「厳選された人材は伸びない」)だ。女性タレントを発掘する「全日本国民的美少女コンテスト」では、グランプリ受賞者より審査員特別賞や部門賞などの受賞者のほうが知名度が高い。米倉涼子、上戸彩、福田沙紀、武井咲……。過去の経験やデータから無意識に選ばれた人材は既視感が強く、最初は魅力を感じても、意外性に導かれる発展性がないため飽きられる。〈ドキドキ感やワクワク感は、変化の大きさに比例する〉のだと。
高品質な製品を低コストで迅速に生産することが求められた工業化社会では、知識の量や記憶力がものをいい、〈集団の和を乱さず組織と上司に忠実で、勤勉な人物〉が求められた。しかし、独創性や創造性が求められるポスト工業化社会では、予定調和的な選別・選抜は何も生み出さない。〈「選ぶとよい時代」から「選んでもムダな時代」へ、そして「選んだらダメな時代」へと移り変わってきたのである〉。
日本の組織を覆っているのは「柔らかい全体主義」である、と著者はいう。「組織の論理」に屈服しないために必要なのは〈自分および他人の自由や誇り、権利を尊重し、個人の意欲と能力を最大限に引き出そうとする「健全な個人主義」である〉とも。企業の人事担当者はみんな読んだほうがいいですね。戦前・戦中の政権や軍部がもっとも嫌ったのは個人主義者だった。〈わが国に健全な個人主義が浸透していたら、先の戦争のような悲劇もおそらく防げただろう〉という指摘が重い。
※週刊朝日 2016年4月15日号