立机(たてづくえ。立前座が帳面をつけたりするための机。前座にとっては「空母」のような場所)を前に、基本ズーッと座りっぱなしでよい。誰かが着替えようとしたら「お前、手伝え」と目線で合図を送り、はなをかんだら「ゴミ箱持っていけ」と指示をする。自分は座ったまんまの司令塔。それくらいがちょうどいい。
自分でなにもかもやろうとするリーダーは下の者からすると、非常にうっとうしい。下の仕事を奪ってでもする立前座はハタから見てるとよくできるように見えるが、ようは人を使うことが下手なリーダー。指示するくらいなら自分がやったほうが早いという考え方では下の者は育たない。どうかすると下の者の手柄を、自分のことのようにアピールする上もいる。どの世界も一緒だ。
下の者がしくじったときに、一緒に謝るのも立前座の仕事だ。「下のしくじりは立前座の責任」だから。謝ったあとに「なんでお前のためにオレまで謝んなきゃいけねぇんだよ!」という態度をとるような立前座はだいたい嫌われる。「これから気をつけろよ」のひとことを残して、また立机に戻っていくくらいがちょうどいい。
気前の良さも大切。「これでなにかすぐに食べられるものを人数分買ってきてくれ」と下の者にサッとお小遣いを渡せるのは立前座の器量だ。
これもタイミングが大切で、人手が足りずに猫の手も借りたいくらい忙しいのに自分は立机の前にどっかり座ったまま「あー、オレはチーズ牛丼の特盛の汁だくのネギ抜きで味噌汁を豚汁にしてサラダつけてドレッシングはゴマドレでレシートじゃなくて領収書もらってきて」なんて言いつける立前座は「あんなんだからあの兄さんは噺の間も悪いんだ」なんて悪口を言われること必至。
初日や楽日に出演者から頂く、前座への祝儀の配分も立前座が行う。A兄さんが立前座のときは祝儀の集まりが良いけど、B兄さんのときはビックリするほど少ない………なんてこともある。出演者の中にはこいつが立前座なら多めに渡そうか、とか、こいつならやらなくていいや……みたいなことも考える人もいる。できる立前座の下に入ると実入りも良い。