元朝日新聞記者 稲垣えみ子
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 元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】ギラギラ太陽のおかげで梅干しもパリッパリ

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 エアコンのない我が家で今夏をどう過ごしているのかという話の続きですが、積極的に取り入れていることの一つが「洗濯」である。今年は実によく洗濯をしている。きっかけは、この酷い暑さをやり過ごすため、そうだ暑さの悪いことばかりじゃなく「良いところ」にも目を向けてみようと思いつき、そういえば洗濯物がめっちゃ早く乾く! と気がついたこと。朝洗濯をしたら昼前にはもうパリッパリ。これは今以外にはありえないことだ。

 ってことで、洗うのも絞るのも乾かすのも大変な大物、ジーンズやシーツなどを嬉々として洗うようになった。やり始めたら、洗う作業そのもの(注・我が家は洗濯機がないので手洗い)が水遊びのようで楽しく涼しく、家へ帰ったら昼だろうが夜だろうが何か洗うもんはないかなと探し、ピチャピチャ洗う。子供がビニールのプールで遊ぶみたいなもんですね。

ギラギラ太陽のおかげで梅干しもパリッパリ。塩を吹いているやつも。暑かったんだね……(写真:本人提供)

 で、ある日近所のおばあさんと立ち話をしていたら、そのおばあさんも似たようなことをしていることが判明した。今着ている服を、毎日洗って干してパリッと乾かしてまた着るのが気持ちよくて気に入っているのヨとおっしゃっていた。なるほどわかります。心の垢がそのたびにさっぱりリセットされる感じなんだろうな。それも「すぐ乾く」を実現してくれるギラギラ太陽のおかげである。

 よく誤解されるが、私はエアコンを使うことを否定しているわけじゃない。っていうか私も日中はカフェなどのエアコンにひとかたならぬ世話になっている。でも一方で、エアコンが根本的解決にはつながらないことも気になっている。皆がエアコンだけに頼るようになったら都市はどんどん暑くなる一方だ。実際にここ数年のひどい暑さを経験すると、その悪循環、出口のなさに絶望的な気持ちになる。

 だから、ささやかでも、エアコン以外の暑さ対策の手段を持っていることは、自分の気持ちを安定させてくれるのだ。心が穏やかだと体温が上がることもない。それも私の重要な暑さ対策である。

AERA 2024年9月2日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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