その代わり、私が子育てで重視していたことが二つあります。一つは、規則正しい生活を送ること。もう一つは十分な睡眠時間を確保することです。脳科学者としての知見から、子どもの脳の発達にはこの二つが不可欠だと考え、娘が幼い頃から毎晩8時就寝を徹底しました。その他のことについては、生死にかかわるような重大なことでなければ、うるさく干渉したり、厳しく叱ったりすることはほとんどありませんでした。

 なぜなら私は脳科学者として、子どもの脳の発達には順序があり、時間がかかることを知っていたからです。早寝早起きや十分な睡眠時間などの「生活の軸」を子どもの中につくることができれば、子どもの脳は必ず発達します。実際、幼い頃には大きく見えていた娘と周囲の子たちとの差は成長するにつれ縮まり、いつしかなくなっていました。

 早期教育が過熱する現代において、わが子に何もさせないでいると不安になるかもしれません。でも、脳科学の正しい知識に触れ、子どもに必要な「脳育て」の順序と基本がわかれば、メディアの煽り文句や周囲の言葉に流されず、悠然と構えていられます。

 そして脳が成熟したタイミングで、「こうなりたい」「これをやりたい」といった目標を見つけることができれば、勉強でも習い事でも子どもは自ら進んで努力するようになります。裏を返せば、それまでは親がいくら必死になってやらせようとしても、子どものやる気や主体性は育たないということです。

 子どもの脳を育てる上で親にできることは、生活の軸を整え、信じて待つこと。そして「待つ」というのは、心に余裕がなければできません。ですから、どんなに仕事が忙しくても、まずは親自身がゆっくり休む時間を確保し、子どもに笑顔を見せるだけの心の余裕をもつことが大事です。「こんな問題も解けないの!」と怒りながら子どもの勉強をみるくらいなら、一歩引いたところから優しく子どもを見守ってあげてください。

 私の願いは、一人でも多くの親御さんが「親ってそんなに肩肘張らなくていいんだ。それでも意外に子どもはよく育つんだ」と思って肩の力を抜き、たくさんのタスクから解放されてゆっくり眠れるようになることです。娘は大学受験では自分の意志で医学部進学を決めました。1日8時間睡眠を確保し、受験勉強の傍ら、進んで家事もこなしながら国立大学医学部に合格しました。「しっかり眠って健康にさえ育っていれば、子どもはいつか自分から勉強しだしますよ」とは娘からの伝言です。本書を手に取ってくださったみなさんには、その時をゆっくり待つことができる親に、ぜひなっていただきたいと思います。

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