銀行界もメディアも「実質国有化」「返済は不可能」とみなした。社内でも同様だ。だが、一人、「公的資金は必ず完済する」と言い続け、前号で触れたように05年2月に株式27億3千万円分を買い戻す形で、最初の一歩を踏み出す。以来、毎年の利益を溜めては返済を重ね、りそな銀行社長時代の2015年6月に完済。『源流』からの、ぶれない流れだ。

『源流Again』では、福岡市の前日に鹿児島市の私立ラ・サール学園にも寄った。キリスト教系の中高一貫校で、高校で受験した。子どものころから「遠くへいってみたい」との思いが、どこかにあったようだ。当時、福岡市から鹿児島市へは国鉄(現・JR)の特急電車で5時間弱。自宅が遠い生徒は寮生活になるのも、魅力だった。

同期生100人に100台の勉強机と50の2段ベッド

 久しぶりに訪ねると、正面玄関の位置が変わり、建物も改築されている。グラウンドの前に寮があり、通学といってもここから教科書を持って教室へ走っていくだけ。3食付きで、すべて校内で食べた。高校から入る生徒は100人ほどで、全員が寮へ入るわけではないが、体育館のような建物が2棟。一つに100台の勉強机が並び、もう一つに2段ベッドが50台。空き地に「基地」をつくるなど遊び方も自分たちで考え、自立心を満たす生活が『源流』からの水量を増していく。

 大勢の仲間がいるので、支え合う部分は多いが、自分のものは自分で管理しないといけない。風呂から上がってきたら母が下着を置いてくれていた生活とは、違う。このときの経験は、以後に役立った。単身赴任も違和感なくできたし、いまでも自分のことは自分でやる。

 2013年4月にりそな銀行の社長に就任。4年後に会長兼務となり、大和銀行が本拠を置いていた大阪の商工会議所の副会頭にも就く。持ち株会社のりそなホールディングス会長を経て、2年前にシニアアドバイザーへ退いたが、会議所の副会頭は続けている。中小企業をどう活性化するか、来年の大阪・関西万博をどう盛り上げるか、が課題だ。

 中学校へ入った1970年に大阪で万博があり、親が「いってきたら」と言うので夏休みに1人で大阪へいき、おじの家に泊まって毎日のように会場へ通う。いまでは当たり前の携帯電話や「月の石」をみて、わくわくした。世界にはいろいろな国があることも分かり、パンフレットは大切に取ってある。

 万博は、大人からみるといろいろ課題があるのは分かるが、子どもの目線からみると全く違う。見方は子どもたちに任せ、いい体験になる、と信じたい。「外へ出よ」という両親の姿勢は、自分も受け継いでいるつもりだ。(ジャーナリスト・街風隆雄)

AERA 2024年8月26日号

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