ミシュラン三つ星に55年間輝き続けるフレンチレストラン「トロワグロ」。家族で始めたレストランがなぜ世界中の美食家を惹きつけるのか? 巨匠フレデリック・ワイズマン監督が食材の仕入れ、厨房の様子などその全貌を静かに見つめ、観客を至福の食体験へと誘うドキュメンタリー「至福のレストラン/三つ星トロワグロ」。ワイズマン監督に本作の見どころを聞いた。
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2020年の夏、私はブルゴーニュの友人宅に1カ月滞在させてもらい、そのお礼にミシュランガイドでトロワグロを見つけました。ランチが素晴らしかったので、4代目のシェフ、セザールに「撮らせてもらえないか?」と聞き、30分後にOKをもらいました。
紋切り型の表現になりますが、彼らの作る味は本当に独創的で美味しいんです。とても洗練されています。トロワグロは1930年に始まり、55年間、三つ星に輝き続けています。なぜトロワグロがこれほど長く愛され続けるのか。私は好奇心の強い人間で興味を持ったことを知りたいと思うことが常に出発点です。リサーチなどはせず、常に撮影と編集を通じて私自身が何かを学びます。今回は食のアーティストについて学びました。
撮影をしながらトロワグロ一家が互いに協力しあって伝統を受け継いでいることを知りました。3代目であるミッシェルと長男セザールが料理の味付けを話し合うシーンがあります。ソースに何を付け足したらいいか、何を減らすべきかを入念に吟味する。彼らの味に対する情熱と繊細さがわかります。ミッシェルは早くから日本料理に影響を受けてきたので、“活け締め”や醤油などの言葉も登場します。
さらに一家が現代においてパーマカルチャー(持続可能性)に大きな関心を持ち、ワインや野菜、チーズ、肉にいたるまで有機栽培にこだわっている様子には本当に感銘を受けました。レストランは自然のなかにあり、どの季節の風景も素晴らしいのです。
私はこれまで44の作品を撮ってきました。少年刑務所、軍隊、バレエ、図書館……題材は無限にあります。私にとって作品作りは「発見の旅」です。そして観客にも私が見て感じたものを感じてもらえればと思っています。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2024年8月26日号