「午餐でのおことばを取りやめるという大統領の提案は、戦争にまつわる悲しい歴史を乗り越え、これからは未来に目をむけて共に歩もうというメッセージだと思いました。帰国後の両陛下のご感想でも戦争については一切触れず、感謝と未来志向の内容になっていたのは、大統領のそういったお考えも尊重されたためでしょう」(山下さん)

 また、平成の時代に侍従として天皇ご一家に仕え、駐チュニジア、駐ラトビア特命全権大使などを歴任した多賀敏行・中京大学客員教授も、このインドネシア訪問で令和皇室の新しい風を感じたと話す。

「皇室もずいぶん変わった」と多賀さんが感じたのは、陛下が立ったまま記者からの質問に答えた場面だった。

 世界最大級の仏教遺跡であるボロブドゥール寺院を視察した陛下は、インドネシアの伝統的な生地バティックを用いたシャツと、素足にサンダル姿。愛用のカメラを手に、楽しげな表情を見せながら記者らの取材を受けた。

 遺跡を傷つけないために履いた専用のサンダルの感想をたずねられ、「サンダルは、思っていたより履き心地が良かったです」と笑顔で返した。

 多賀さんはこう話す。

「平成の陛下は、記者会見で話す言葉について、ご自身で時間をかけて練っておられました。要所要所で宮内庁長官ともご相談されます。そうしてA4用紙3枚程度にまとまった言葉を暗記して会見に挑まれました。間違いのないよう、特定の方々を傷つけることのないよう、配慮を重ねて慎重に表現を練り上げられたものです。そうした立ち振る舞いが、皇室の持つ独特の神秘性につながっていたように思います」

 一方で、令和の天皇陛下雅子さまについては、「会見の回答は事前に準備されたものもあるでしょう。それでも、話し方は自然で飾らず、まるで友人に対するように国民や人びとと接しておられるなと感じた」と、多賀さんは話す。

 陛下が模索し続けている「時代に即した新しい公務」が、その姿を見せている。

(AERA dot.編集部・永井貴子)