藤原たちは市の調査でも迫れなかった事実をあぶりだすため、220人余りの在職者全員にアンケートを取り、さらに退職者を含む職員ら約110人にヒアリングを実施した。それまでに神戸市が行ったアンケートとは一線を画し、病院の協力も引き出して可能な限りの内部資料も調べた。
 

職員が問題にしたのはまさに「カビ」

 それら職員たちの回答の中で、改善を訴える声として多かったのが「カビ」だった。

 病院の敷地は、雑木林に囲まれ、近くに川が流れ、標高にして周辺から15メートルほど低いくぼ地になっている。立地的に湿気が溜まりやすく、風が抜けにくい。カビは繁殖しやすかった。

「看護師の中には、個人的にカビ取り剤を持ってきて洗浄をしている人もいるようです。けれども到底、それで追いつく状況でもない」

 藤原がやるせない表情で語った。

 カビは季節を問わずに病棟、病室の壁や天井に広がり、梅雨時になるといっそうはびこるようになる。土居が6月に就任して以降、改善に乗り出したとはいえ、3カ月では状況はほとんど変わっていなかった。

「病院は清潔というイメージがあるのに、これはなんなんだ。なぜこうなるかが全くわからなかった」

 藤原にとっては強烈な違和感だった。しかし、調査を進めるにつれて確信めいた思いが芽生えてきた。

 カビの原因の一つは、老朽化したエアコンにあった。

 虐待事件の発覚した通称「B4病棟」もひどかった。1987年に建てられた最も古い4階建ての最上階にあり、およそ55人の男性が入院している。その多くは精神疾患の病態が悪化した患者たちだ。同じ訴えを繰り返したり、突発的に暴れたり。他にも食べ物でないものを食べたり、便を周囲に塗りたくったり、おむつを外して便まみれになったりする患者もいた。
 

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事件の背景を新院長が分析