ビー・パットマン。高校時代に起業。大卒後は医学部進学希望(写真:本人提供)

激戦地のミシガンから

 カリフォルニア州の地方検事だったハリスは州司法長官、米上院議員、そして副大統領へとキャリアを重ねた59歳だ。バイデンが撤退した2日後、彼女がウィスコンシン州で演説した際、聴衆が最も盛り上がったのは、ハリスが「私たちは女性たちを信頼し、自分の身体にまつわる選択権を女性が持つことに関して、政府には口出しを一切させない」と断言した時だった。

 ミシガン州デトロイト近郊に住む29歳のソーシャルワーカーのジェシカ・アーチは、家族に性的虐待された子どもたちを州の権限で隔離保護し、安全な養子縁組先を探すのが仕事だが、彼女の最大の懸念も「中絶の権利」の確保だ。家庭内で親にレイプされ妊娠する女児たちの数が想像以上に多く、中絶が違法の州では、そんな犯罪被害者である児童ですら、中絶処置を受けられないことがあるという。

「トランプが狙撃された時、命が助かって良かったと心から思った。でも、それと選挙は別。女性の権利を制限する政権に今逆戻りしてはいけない」と語る。

 アーチは、子どもを養子に欲しいというカップルの自宅を訪問して審査することが多いが、保守派のキリスト教信者の家庭、つまりトランプ支持者の基盤である層が養子縁組を希望することが多いという。「養子縁組した子が将来LGBTQのメンバーになっても愛し続けられますか?」と聞くと「無理」と即答するケースが多いそうだ。

 見ず知らずの子どもを養子にしたいと願うほど慈悲深いが、同性婚を忌み嫌い、中絶の権利を否定する保守派の人々にトランプ陣営がどれだけがっちりと食い込んでいるかを見ているだけに、ハリスが勝つには副大統領候補の選定が重要だと言う。

 彼女が住むミシガン州の知事グレッチェン・ウィットマーは、かつて自らのレイプ被害を議会で告白した経験もあり、その後、中絶の権利を保護する州法を通して、女性からの人気が圧倒的に高い。ウィットマーが副大統領候補になればトランプに対抗できるのでは、とアーチは言う。

 だが、前述のパットマンは違う意見だ。「カマラをより輝かせるためには、副大統領候補にはあえて典型的な政治家タイプの無難な男性を選ぶのがいい。グレッチェンにはミシガン州に残って州内を守ってほしいし」

(在米ジャーナリスト・長野美穂)

ジェシカ・アーチ。子どもの人権専門のソーシャルワーカー歴7年(写真:本人提供)

AERA 2024年8月5日号より抜粋

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長野美穂

長野美穂

ロサンゼルスの米インベスターズ・ビジネス・デイリー紙で記者として約5年間勤務し、自動車、バイオテクノロジー、製薬業界などを担当した後に独立。ミシガン州の地元新聞社で勤務の際には、中絶問題の記事でミシガン・プレス協会のフィーチャー記事賞を受賞。

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