「『共病文庫』とは、つまるところ彼女の遺書なのだと、僕は解釈している。彼女はまっさらなその文庫本に日々起こった出来事や感じたことを書き込み、残している。記録の仕方にはどうやら彼女なりのルールがあるらしい。(中略)そして、彼女は死ぬまで『共病文庫』を誰にも公開しないと決めている。僕が彼女のドジにより不可抗力で見てしまった最初の一ページを例外とし、その生の記録は誰にも見られていない」(本書より)
それまで家族以外との交流を避けてきた僕は、桜良に促される形で、半ば強引に焼き肉に連れて行かれたり、旅行に付き合ったり、家を訪れたりとしているうち、次第に人との関わりに楽しさを覚え、ときには人と衝突することをも受け入れるようになりはじめます。
また桜良にとっても、僕の存在は、地味なクラスメイトから秘密を知っているクラスメイト、仲のいいクラスメイト、そして仲良しくんへと変化。正反対の二人が、まるでそれが必然であったかのように、互いに惹かれ合う過程、その繊細な感情の揺れが描写されていきます。
そして最終ページとなってしまった共病文庫には、桜良の僕に向けた次のような言葉が残されていました。
「そうだね、君は嫌がるかもしれないけどさ。
私はやっぱり。
君の膵臓を食べたい」
君の膵臓を食べたい――一見グロテスクにも感じる言葉に秘められた、二人の暖かくも切ない想いが、じわりと伝わってくる作品となっています。