数万人の大観衆の前で、ジャッジをする審判

 キャンプ中、審判は何をしているのか。

「午前中はランニングやダッシュなどの筋力トレーニングを2時間ほど行います。午後からは紅白戦に参加したり、ブルペンに入らせてもらい、投手が投げるボールを捕手の後ろから見たりして、ボールへの『目慣らし』をします」

 直前まではオフだったため、「審判も感覚が鈍っている」という。

「キャンプ中に何千球ものボールを見て、少しずつ感覚を取り戻していきます」

 この期間に監督やコーチ、選手とコミュニケーションをとることも重要だという。

「馴れ合いはよくありませんが、ある程度の良好な人間関係を形成することは、良い仕事をするためには必要です。立場は違いますが、みんなプロ野球界の仲間ですから」(以上、井野さん)

月17万円 生活できず副業や親の支援を受けるケースも

 NPBの審判になるには、2013年に開校された「NPBアンパイア・スクール」を受講するのが基本だ。開催は年に1度で、毎年150人ほどの応募者の中から、1次選考を通過した60人前後が受講できる。

 パ・リーグ審判として29年、通算1451試合に出場した山崎夏生さん(69)は「NPBアンパイア・スクール」についてこう語る。

「スクールでは、アメリカの審判学校が5週間かけて行うメニューをおよそ1週間で行うため、内容はかなりハードです。朝9時から、実戦に即したプレーへの対応、投球判定などを学び、夜は座学で講話やルールの勉強。テストも毎日実施されます。過酷なため、途中でリタイアするケースもめずらしくありません」

 受講者はNPBの審判を目指す人がほとんどだが、中学・高校の野球部の顧問やアマチュア野球で指導的立場にある人、少数だが女性の参加もあるという。 

 スクールを終了し、成績優秀と認められた受講者のみが「研修審判」として採用される。ここが審判としてのスタートラインだが、採用人数は毎年わずか3~6人という狭き門だ。

 契約期間は最長で2年。「研修審判」の待遇はシビアだ。報酬は、月17万円の6カ月契約(プロ野球のシーズン中のみの契約)で、「年俸102万円」。研修審判の収入だけでは生活が厳しいため、副業をしたり、親の支援を受けたりするケースが多い。かつては引退したプロ野球選手がセカンドキャリアとして審判を志すケースも多かったが、待遇のせいか、近年応募する人はほとんどいない。

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