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 アメリカ・ワシントン州南部にあるリッチランドは核燃料生産拠点で働く人々のために作られた。町のシンボルは“キノコ雲”。「川の魚は食べない」と語る人、原爆への複雑な思いを口にする人──町の人々に静かにカメラを向けた、映画「オッペンハイマー」のその後といえるドキュメンタリー「リッチランド」。アイリーン・ルスティック監督に本作の見どころを聞いた。

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 最初にリッチランドを訪れたのは9年前です。別の映画の撮影で通りかかったのですが、町のあちこちに核のイメージや象徴が溢れていることに驚きました。私は核や原爆を良くないものだと考えて育ちましたが、それを誇らしいと思っている人々の存在を改めて知ったのです。この町はアメリカ中の人々が抱えている問題──暴力的な歴史を抱えながら生き続けるとはどういうことか、を象徴するケーススタディーのようだと思いました。4年半をかけて町を撮影し、人々の声に耳を傾けました。

 はじめは外部の人間に対する警戒心の強さを感じました。これまで批判されネガティブな報道をされたからだと思います。私は調査報道をしているわけではないので対象を追い回して撮影したりはしません。傾聴し、学ぶことが私のやり方です。私の姿勢を理解してくれたとき、彼らは心を開いて多くの話をしてくれました。

アイリーン・ルスティック(監督・製作・編集)Irene Lusztig/イギリス生まれ、米・ボストン育ちの米国人1世。両親はチャウシェスク政権下のルーマニアを政治亡命して逃れてきた。全国順次公開中 (c)2023 KOMSOMOL FILMS LLC

 撮影を通じて感じたのは人間の複雑さです。政治的に保守的な人たちはもっと単純な考え方をするのかと思いきや、非常に複雑な内面を持っていることもわかりました。特に高校生たちの芝生での対話シーンには心が動きました。意見の違う者同士がオープンに議論をする。周囲の大人たちにできないコミュニケーション法に彼らが踏み出していることに感動しました。リッチランドの人々もこの映画をじっと鑑賞してくれたのです。現代アメリカの政治的な状況を考えると、異なる主張を持つ者同士の間に対話が持てることを示したことの意味があったなと思います。

 まったくの偶然ですが映画「オッペンハイマー」が話題になったこともラッキーだったと思います。普段なら地味とされがちな本作がタイムリーなトピックだと各地で上映してもらえるのですから(笑)。

(取材/文・中村千晶)

AERA 2024年7月29日号

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