野暮であることは承知で安村の全裸ポーズ芸の構造を解説すると、その面白さのカギは「フリとオチの衝撃的な落差」にある。安村は最初に「全裸に見えるポーズを披露する」と宣言してから、ネタに入る。

 この時点では、観客はこれから何が起こるのかがよくわからない。ひょっとするとパンツを脱いで全裸になる姿を見せられるのではないか、という不安を感じる人もいるかもしれない。実際、今回の『ブリテンズ・ゴット・タレント』でも、冒頭の説明の時点では審査員の反応はかんばしいものではなかった。このフリ(ネタ振り)の段階では、観客の気持ちの中では期待よりも不安がやや勝っている。

 そんな中で、音楽が流れて実際に全裸ポーズが披露されると「あっ、そういうことか」という気付きが訪れ、緊張からの緩和による笑いが生まれる。

 今回の舞台で、安村はネタの最後にスパイス・ガールズの「Wannabe」に合わせて、連続で全裸ポーズを披露していた。この時点では説明抜きにネタが伝わる状態になっているので、連続で披露することで観客のボルテージも最高潮に達する。

 このネタ動画が多くの日本人を感動させるのは、その笑いの構造が外国人の観客にきちんと伝わった上で笑いが起こった、ということがはっきりとわかるからだ。意図を誤解したり、別のところで笑ったりしているわけではなく、安村の狙い通りに観客と審査員は笑い転げたのだ。

「全裸に見えるポーズ」は、静止画で見るだけでも十分に滑稽で面白いものではあるのだが、フリを十分にきかせてからオチに向かう「ネタ」というパッケージで見るのが一番面白い。このネタを思いついて、この見せ方を考えた、というクリエイティビティこそが真に評価されるべきものである。イギリスの観客と審査員にもそこがきちんと伝わっているように見えた。

 安村のこの快挙は「日本のお笑いが海外でも通用するかどうか」という問題を考える上で重要なサンプルとなるだろう。日本のお笑いの中には「全裸ポーズ芸」以外にもそのままの形で海外でも通用しそうなものはたくさんある。

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