あさひな・あき/1981年、京都府生まれ。作家、医師。2021年、「塩の道」で第7回林芙美子文学賞を受賞。受賞作も収録した『私の盲端』で作家デビューを果たす(photo 写真部・高橋奈緒)
あさひな・あき/1981年、京都府生まれ。作家、医師。2021年、「塩の道」で第7回林芙美子文学賞を受賞。受賞作も収録した『私の盲端』で作家デビューを果たす(photo 写真部・高橋奈緒)
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 朝比奈秋さん『サンショウウオの四十九日』が17日、第171回芥川賞を受賞した。刊行するたびに様々な文学賞を受賞し、注目されていた朝比奈さん。デビュー作『私の盲端』では、人工肛門になった女子大生の意識の変容を、三島賞受賞作『植物少女』では自分の誕生と引き替えに植物状態になった母との交流を描いた。今回の芥川賞受賞を記念して、『植物少女』の書評と『私の盲端』での著者インタビューをあらためて紹介する。

【画像】朝比奈秋さんの著書『私の盲端』はこちら

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 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

『私の盲端』は、朝比奈秋さんの著書。医師でもある著者の2編の小説を収録したデビュー作。「私の盲端」はがんの治療のために人工肛門(こうもん)を造設した大学生の涼子の身体感覚と意識の変化、同じ境遇の男性との穴をめぐる交流を描く。「塩の道」では青森の海辺の村に赴任した医師の不思議な体験が語られる。朝比奈さんに、同書にかける思いを聞いた。

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 大学の友人やアルバイト先の飲食店には隠しているが、涼子のヘソの横には人工肛門の穴がある。腹に貼り付けたパウチに便がたまるとバリアフリートイレを探す。そこで同じ境遇の男性に出会い、穴をめぐる奇妙な交流が始まる。「私の盲端」は涼子の内臓と気持ちの変化をつぶさに描いた小説だ。

「心臓があるから人はドキドキできて恋愛を体感できるし、副腎がアドレナリンを出すから興奮することができます。人間は感情や欲望を感じたとき、たいていは内臓を介して自己表現しています」

 と医師でもある朝比奈秋さん(40)は語る。本書は、普段は意識していない内臓の存在感に圧倒される物語でもある。

 もう一編、第7回林芙美子文学賞受賞作の「塩の道」は青森県の海沿いの村に赴任した医師の体験を情趣豊かに描く。朝比奈さんは20代の終わりに西津軽郡の診療所に1カ月勤務したことがある。近くに大きな病院はなく、家族を自宅で看取る家庭が多かった。

「死を病院に外注しないで、自分の人生を自分の中で完結させる凄みを感じました。衰弱して亡くなっていく姿を受け止め、見届ける家族もすごい。どの家にも温かみがありました。廊下の真ん中がすり減っていて、みんなここを踏みしめて生きてきたんだなと」

 どちらの小説も医師ならではの視点が光るが、朝比奈さんは小説家志望だったわけではない。頭の中に物語の映像が浮かんでくるようになり、書き始めたという。

 思い浮かぶようになったのは5年ほど前のこと。病院に勤務し、人工肛門の手術にも参加していた。

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