都知事選に立候補し、マイクを握り、第一声を上げた蓮舫氏=2024年6月20日
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 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は東京都知事選を振り返って。

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 百合子圧勝、蓮舫惨敗、石丸成功。

 終われば、そんな選挙であった。

 小池百合子氏は前回の選挙から約74万票減らしたとはいえ、石丸伸二氏と蓮舫氏の票を足して少し下回るくらい獲得しているから、やはり「小池百合子圧勝」なのだろう。そして蓮舫さんは惨敗。「ベテラン女性政治家どうしの対決」と思っていた都知事選で、まさかの3位。しかも2位の石丸さんと40万票近い差で負けてしまった。で、石丸さんは……よかったね……あなたのプロジェクト大成功だね……すごいね……なんでかね……と呆然とする気分である。選挙はつくづく生ものである。

 報道によれば、若者票は石丸さんに流れたようだが、驚くのは女性票である。蓮舫氏が獲得した女性票は21%で、石丸氏は20%、ほぼ同じなのだ。対して小池氏は44%が女性票だった。蓮舫氏は石丸氏なみに女性に人気がなかった。私の周りにも、現政権に怒りながらも「蓮舫一択」のキャンペーンに逡巡する女性たちがいた。悩んだあげくに白紙で出したり、棄権したり、小池氏に入れた人もいた。前回の選挙で宇都宮健児さんに入れ、国政では立憲民主党や共産党の候補者を応援していた女性たちが、である。

「ベストじゃなくベターを選べばいい」「戦略的に投票しなければいけない」

 今回の選挙中、何度も聞いた言葉である。今の自民党政治がイヤならば、改憲勢力を勢いづかせたくないのなら、今回の選挙では蓮舫一択だ!という声は正しいものだと思う。それでも、自分の一票には感情がこもる。“たった一票しかない私の選挙権”だからこそ、“正しさ”だけでは投票できないのかもしれない。投票とは生ものであり、感情的なものであることを今回改めて実感している。

 石丸さんの街頭演説にたまたま通りかかった友人が言っていたが、石丸さんはかなり演説がうまかった、人々を惹きつけて離さなかった、と。父親が中卒であること、世帯年収400万円程だったこと、恵まれたエリートとして順風満帆な人生を送ってきたわけではなく、自らの力で閉塞感を打破してきた“田舎者”であることを落ち着いた口調で話し、「都民皆さんの責任はかつてないほど重大」と、「選挙の主役はあなたたちだ」と人々に語りかける。

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