移送のため、奈良西署を出る山上徹也被告=2023年2月14日

 また、政治と教団の関係を目の当たりにした世論の高まりによって、政府は解散命令を請求せざるを得なくなりました。さらに、昨秋には自民党裏金問題が明らかになりました。安倍氏が存命であれば、表に出ることのなかった問題ではないでしょうか。徹也がそこまで意図していたかどうかはわかりません。ただ、事件の評価と量刑を考える時に、この点も十分に検討しなければならないと思います。

 量刑は『予見または予見できる事実』を起こしたことによって決まります。ですが、今回のように、これほどまでに広い範囲に影響を及ぼした事件については、その社会的意義も争点になると考えています。

 弁護人の弁護方針は、情状弁論だと聞いています。これは、裁判員の心情にひたすら訴える弁論が展開されるものです。甥の徹也が旧統一教会によって壮絶な人生を送らされたことを強調し、その被害感情が旧統一教会にビデオメッセージを送っていた安倍元首相に向けられた結果、事件が起きた。だから、心情的に酌むべき点があるという弁論です。

 ですが、その手法では、この事件の社会的意義にまでは踏み込めないと感じています。ただの『お涙ちょうだい物語』で終わらせてはいけません。

 そう思うからこそ、初公判前に弁護団が度々記者会見をして、徹也の言動をポロポロと話していることには疑問を感じています。一番まずいなと思ったのは、徹也が『拘置所内で刑事訴訟法の本を読んでいる』という情報が出たことです。いったい誰の指示なのか。裁判員に自己弁護に走っているという印象を与えてしまい、事件の意義を検証するどころではなくなってしまうでしょう。世間の耳目を集めるためのパフォーマンスばかりの弁護方針は、徹也が納得していることなのか、と心配しています」

 山上被告の母親(71)は約30年前に旧統一教会に入信。実父と夫(山上被告の父親)の遺産や自宅を手放すなどして総額1億円を献金し、2002年に破産宣告を受けている。今春、週刊文春が母親を取材し、旧統一教会の素晴らしさについて冗舌に語ったと報じている。事件後も変わらぬ信仰を貫く姿を、山上被告はどう受け止めているのだろうか。

次のページ