中辺路を歩く人がスタート地点にすることが多い滝尻王子

「高野山はフランス人が多いという話しです。でも野古道は、アウトドア好きのオーストラリア人とアメリカ人が圧倒的」

 何軒かの民宿に聞いてみても、宿泊客の7~8割はアメリカ人とオーストラリア人といった感覚だった。そのうち半分以上はオーストラリア人だという。

 しかしここにきて、新たな問題が浮上している。日本人が熊野古道を歩こうと思っても、宿を確保できないのだ。筆者も中辺路の途中にある野中地区の民宿を予約しようとした。古道を歩く1週間ほど前だったが、軒並み満室。6軒目でようやく1部屋を確保できた。

 ある民宿経営者は、

「外国人の予約は早い。人によっては半年前ということも珍しくないんです。でも日本人は1週間前や2週間前。そのときはもう部屋がないんです」

 と指摘する。

民宿の料金も高め?

 田辺市によると、中辺路に沿った民宿は、熊野本宮大社周辺を含めて、1日1900人ほどを受け入れることができるという。しかし古道歩きの場合、予約は高原、近露、野中というエリアの民宿に集中する。外国人で満室になることが多いのだ。

 途中で会った数少ない日本人のWさん(56)は、日程を日帰りに変更していた。

「中辺路を歩くときはどうしても1泊2日か2泊3日の日程になる。宿をとろうとしましたが結局、ダメ。日帰り日程で、半分だけ歩くことにしました」

 民宿の料金の高さも、日本人を遠ざけているという声もある。中辺路に沿った民宿の値段は、1泊2食に翌日の弁当をつけて1万5000円から1万8000円というところが多い。日本のほかの地域の民宿よりだいぶ高い。円安のなかでは外国人は気にならないのかもしれないが、日本人は……。

 これもある種のオーバーツーリズムなのだろうか。

(下川裕治)

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下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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