鬼舞辻無惨と対峙する珠世。劇場版「無限城編」特報より。(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

鬼化後の狂気と「正気」

 珠世にまつわる内容で、ひとつ重要な点がある。家族を喰い殺した後に、珠世が「我にかえっている」ことだ。実はこれは極めて珍しいケースだ。

 自暴自棄になった期間をのぞけば、珠世は人を傷つけようとはしていない。無惨や黒死牟や童磨などの「強い鬼」は、自我も記憶もあるのだが、彼らは「人間の殺害」自体をやめようとはしない。やはり珠世は異質な存在だ。では、人間殺害を踏みとどまる鬼には、どんな特徴があるのか。

 人を殺さない鬼化の事例から、ひとつの仮説を立てることができる。陽光すら克服できた竈門禰豆子。鬼を喰って鬼化する特殊な能力がある不死川玄弥。200年以上かかって、珠世が鬼化させることに唯一成功した愈史郎。おそらく彼らは「鬼と人間」という相反する2つの要素を、同時に保持できる”希少な者”なのだ。だとすれば、珠世もまた彼ら同様に「特別な鬼」である可能性が高い。

 人間捕食後の珠世を、無惨は鬼化が完了していると認識していた。だからこそ、鬼である珠世が、こんなかたちで「人間側につく」のは想定外だったはずである。

珠世の「罪」? 無惨の罪?

 無惨という男は、自分以外の人間や鬼に、特別な愛情を見せることはなかった。無惨は「人間らしい愛情」というものを“知って”はいたし、そのようなそぶりを演じることも巧みだったが、「人間の愛情の果て」がどこに向かうのか、なぜそのような思考に至るのかが、どうしても“分からない”。妻子を巻き込んでまで自爆した産屋敷耀哉の心を、理解することもできなければ、耀哉の家族が彼と一緒に死ぬことを選んだ理由が「愛」であることを、察することすらできなかった。

 おそらく、無惨が過去に珠世を鬼にしてやったのは、病に苦しむ彼女の様子を自分の人間時代と重ねて、少しばかり“親切に”してやった、くらいの感覚だったのだろう。不老不死に限りなく近い体まで与えてやったというのに、夫と子どもを殺害したくらいがなんだというのだ、と言わんばかりの態度である。

「お前も大概しつこい女だな 珠世 逆恨みも甚だしい」(鬼舞辻無惨/16巻・第138話)

 珠世は涙を流しながら叫ぶ。「その罪を償うためにも 私はお前とここで死ぬ!!」

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