美しく「特別な鬼」珠世
鬼は群れない。しかし、不思議なことに、かつて珠世は無惨のそばに置かれ、行動をともにしていたことがある。当時の無惨は、珠世を華やかに着飾らせており、嬉々として彼女を連れ回しているようにも見えた。無惨は自分が人間に擬態する時にも醜い姿に変ずることはなく、みずからの「美しさ」にこだわりがある鬼だ。そして、珠世もまた、周囲が驚くほどの“美貌の鬼”だった。
「鬼滅の鬼」は、無惨の血液を分けられたことによって誕生する。それにもかかわらず、珠世は研鑽(けんさん)の果てに、医学の知識と技術を身につけ、愈史郎という名の青年と、猫の茶々丸を鬼化させることに成功していた。異例中の異例である。
鬼化後、愈史郎は珠世に寄り添い、「珠世様は今日も美しい」「怒った顔も美しい」と彼女を慕うのだが、炭治郎も珠世に頬をあからめる場面がある。鬼だけでなく、人をも魅了する、賢く美しい鬼――それが珠世である。
珠世の悲願、無惨の死
そもそも、なぜ珠世は鬼になったのか。彼女は人間時代、不治の病にかかって延命を願った末に、救世主のように現れた無惨にだまされ、鬼になった。鬼化による一時的な理性の喪失が悲劇を生み出す。珠世は最愛の子ども、夫をみずから喰い殺してしまった。正気にかえって悔いても、取り戻せぬ過去。地獄のような日々の中で、珠世は鬼舞辻無惨の滅殺を誓う。
鬼殺隊と無惨たちとの総力戦が始まると、産屋敷邸の爆破現場に姿を見せた珠世は、無惨と激しい言い合いになった。
無惨「お前の夫と子供を殺したのは誰だ? 私か? 違うだろう 他ならぬお前自身だ お前が喰い殺した」
珠世「そんなことがわかっていれば 私は鬼になどならなかった!! 病で死にたくないと言ったのは!! 子供が大人になるのを見届けたかったからだ…!!」(鬼舞辻無惨・珠世/16巻・第138話)