2017年、電王戦でコンピュータと対戦する佐藤天彦叡王・名人(現九段)(撮影:松本博文)
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 注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2024年7月1日号より。

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 ドワンゴが運営する動画配信サイト「ニコニコ動画」が現在、大変なピンチに陥っている。大規模なサイバー攻撃によりシステム障害が発生し、サービスの完全な復旧には当分時間がかかるという。筆者も長くニコニコ動画を愛してきたユーザーの一人として、とても悲しい。

 将棋愛好者、関係者の多くはこれまで、ドワンゴに多大な恩義を感じてきた。同社が将棋界で果たした功績は、あまりにも大きいからだ。

 2012年、人類とコンピュータ将棋の真剣勝負の舞台となった電王戦が、ドワンゴなどの主催により始まった。人類と人工知能のかかわりという点においては、将棋界はその最前線にある。コンピュータが棋士に追いつき、やがて追い越していく過程は、ニコニコ生放送を通じ、ドラマチックに伝えられた。舞台裏を多少知る者として言えるのは、もしドワンゴの中の人々の尽力がなければ、棋士とコンピュータの対戦は実現困難だったか、あるいはもっと地味なものになっていただろう、ということだ。

 2015年には人類の最強者を決める「叡王戦」が創設された。そこで優勝した人類の代表が2年連続でコンピュータに敗れ、両者が競争する時代には一区切りが打たれた。叡王戦はその後、タイトル戦に昇格。新聞社・通信社以外の主体がタイトル戦のメインスポンサーとなるのは、将棋界空前のことだ。主催はのちにドワンゴから不二家へと引き継がれたが、現在では八大タイトル戦の一角としてすっかり定着している。

 タイトル戦など、主要な対局を完全生中継で伝えるスタイルも、ニコニコが定着させた。その中継を見て、将棋に興味を持ち、その面白さを知ったという「観る将棋ファン」は多いだろう。将棋を愛する者の一人として、いまこそニコニコを応援したい。(ライター・松本博文)

AERA 2024年7月1日号

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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