ひと口に「黒」と言っても、白や赤、黄色味の混じった黒など、さまざまな種類がある。
雅子さまがお召しのジャケットは、光に当たっても白光りなどせず、漆黒の色味が美しい一着なのだという。
「私どもも皇后さまが英国で着用いただいているとは存じませんでしたので、関係者を通じて教えていただき、驚きました」(辻さん)
創業者の芦田淳氏は、かつて上皇后美智子さまが皇太子妃であった時期に専属デザイナーを務め、1993年の天皇陛下と雅子さまのご結婚の際の関連儀式、「饗宴の儀」のドレスも数着手掛けている。
同ブランドの検査基準は厳しく、量産のプレタポルテ(既製服)といえども、すこしでも気を抜くと返品されてしまうほどだったと、辻さんは振り返る。
皇太子妃時代から既製服も愛用
ロイヤルの国葬への参列は、皇室の大切な公務のひとつだが、日程は急に決まることが多いため、皇室周辺は相当にあわただしいスケジュールとなる。
2022年9月8日に死去したエリザベス女王の場合も、両陛下は17日に訪英し、19日の国葬に参列するという強行スケジュールだった。
そのときに、雅子さまがお召しだったのが、辻洋装店が手掛けた「吊るし」のジャケットだった。
かつて、皇室に仕えた人物はこう話す。
「こうした急な海外訪問では、当然仕立ての衣装の準備も間に合わない。もともと皇后雅子さまは、皇太子妃時代から体調の問題もあり、プライベートでは既製服もよくお召しでした。質が良く値段も手ごろで着心地がいいという合理性があるならば、海外訪問時であってもすべてが高価なオートクチュールでなくとも構わない、というお考えなのでしょう」