イギリスの中絶クリニックに掲示されていた注意書き(北原さん撮影)

 私としては、クリニック内を見てBPASスタッフから話を聞く……とイメージをしていたのだが、驚いたのは守秘義務に関する書類にサインした上で、当然のように診察の場を見ていくように提案されたことだった。今日は17人の予約が入っていて大変忙しいのだけど、もし女性たちが了承してくれたら、一緒に診察室に入ってみたら、と。

 英語を聞き間違えているのかと思うほどに、衝撃的な提案に私には思えた。センシティブな内容が語られるに違いない、人生の大きな局面であるカウンセリングの場に、全くの第三者が関わっていいはずがないと思ったのだ。そんな私の戸惑いはよそに、「もちろん、患者さん次第だけど、まず聞いてみましょうね!」と話はどんどん進み、最初にカウンセリングに訪れた女性に、代表の女性が立ち話風に「どう?」みたいな感じで声をかけたところ、「あーどうぞー」となり、呼ばれた私が慌ててカウンセリングの部屋に飛び込んだのだった。ここまでものの5分くらいの話である。

 心の準備がないまま、私は大きな窓のある明るい部屋に通された。日本と同じようにパソコンを見ながらパチパチと情報を打ち込む医師(かと思ったら助産師)の前に、さっきクリニックに着いたばかりの患者が座っている。30代前半くらいだろうか。やはり30代前半くらいに見える女性の助産師がリラックスした雰囲気で「最後の生理はいつですか?」と聞き、答えを聞くと「妊娠が確定していたら、今日中の処置を希望しているんですよね」と確認をしている。2人の間に一切緊張感はない。笑っているわけではないが和やかであり、「ここは私の声が聞かれる安全な場所」と女性が信じているのがわかる。

「避妊しなかったのか?」「どんな避妊をしたのか?」「結婚しているのか」「夫の了承は同意するのか」「よくよく考えたのか」「後悔しないのか」「どうしても産めないのか」「なぜ産めないのか」「助けてくれる人はいないのか」「1人で判断したのか」「相談できる人はいるのか」「仕事はしていないのか」「経済的に苦しいのか」……そういう類のくだらない質問は一切なく、患者の意思と体調の話だけが語られるのだ。

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当たり前の女性の権利