
週刊誌AERAで連載中の漫画「あたしンち」が誕生から30周年を迎えた。読売新聞で始まった第1回から合計して約950話で描かれてきたのは、個性あふれるタチバナ家の日常。ささいな瞬間や、家族や友人とのやりとりを見ていると、なにげない日常がとても愛おしく感じられる。「あたしンち」を生んだ作者のけらえいこさんに書面インタビューで30年を振り返ってもらった。
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「漫画を描くこと」と「笑ってもらう方法」について考え続けた30年間でした。人を笑わせるのは本当にむずかしい。「フフッと笑ってもらえたら良いな……」程度の目標でも、七転八倒でした。なので「声を出して笑った」と言われるのがいちばんうれしいです。
いくつか挙げると、例えば母が自分の歩き方を街のウィンドーでチェックしていたら、中にいたサラリーマンがびっくりした話。あとは母がゴールデンレトリーバーという犬の名前を忘れて、「リメンバーパールハーバーみたいな名前」と言った話など。
とにかく時間がなかった。「あたしンち」はぜんぶ週刊連載で描かれていて、30年を振り返ると、ずっと時間に追われていました。ゆるく見える私の漫画も、実は全力投球で描いているので、ネタ出しに6〜7日くらいかかってしまう。肝心のペン入れは、最後の4〜5時間でやっつける感じでした。
アニメ化は「恥ずかしくて死にそう!」
最初のころいちばん困ったのは、自分の漫画を人に相談できなかったこと。コミック誌ではあたりまえの「担当編集者」という存在も、新聞の場合はいないんです。連載をどう操縦していったらいいかわからなかった。ネットがない時代は、どう読まれているのかも分からない。自分の姿が見えないので、鏡ナシでメイクをしているみたいでした。
アニメ化されたのは2002年です。感じたことは、たくさんありすぎて話しきれないんですけど……。よく覚えているのは、ありがたすぎておそれ多い!っていう気持ちと、恥ずかしくて死にそう!という気持ち。両親の恥ずかしい姿に、声までついて、テレビで流れるなんて、ふつう正視できないですよね。作中でみかんが「うちのお母さん見てびっくりしないでね」と言ってますけど、私も本当に恥ずかしかった。