「コンビニ百里の道をゆく」は、54歳のローソン社長、竹増貞信さんの連載です。経営者のあり方やコンビニの今後について模索する日々をつづります。
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進学や就職、転勤など、春は環境が大きく変わる人生の転機。慣れずに緊張が続き、そしてゴールデンウィークの連休でその緊張が緩み、「なんとなく、モチベーションがあがらない」。そんな方も多いのではないでしょうか。
新しい環境で悩むことは多いでしょう。でもまだ始まって1、2カ月たらず。深刻になるのは早いです。気楽にリラックスしていきましょう。そう声をかけたい気がします。
「なにがどうなろうと、たいしたことはありゃあせん」
敬愛する作家、宮本輝さんの『流転の海』に出てくる、主人公の言葉です。どんな困難があっても、時間が解決してくれるさ。それくらいに考えておけばいいと思いますよ。
私の会社員人生でも、モチベーションがあがらない時期はありました。
大学を卒業して三菱商事に入社し、最初は畜産部にいたのですが、2年で国内の販売会社に出向になったときには「こんなに若くして本社を離れてしまって、おれはもうだめなんだろうな」と思ったこともありました。
35歳で米国駐在から帰国して広報部に配属になった時も、「ああ、もう営業の現場からは必要とされなくなったのかな」と、1年くらいはなかなかモチベーションがあがりませんでした。
でも何とか懸命に仕事をする中で、ちょっとしたきっかけで楽しさを見いだせるようにもなるし、本当にその仕事が自分に合ったものかどうかは、時間をかければわかってくるものです。それが見えてくるまでは、焦らず、ゆっくりと構えておけばいい。やる気がむくむくと出てくる日は、必ずやってきますよ。
新しい土地に行って、ふと見慣れたローソンの青い看板を目にする。からあげクンを食べて、懐かしいふるさとのように感じて気持ちがあたたかくなる。そんな存在であれたらいいなと思っています。
◎竹増貞信(たけます・さだのぶ)/1969年、大阪府生まれ。大阪大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。2014年にローソン副社長に就任。16年6月から代表取締役社長
※AERA 2024年5月20日号