読書好きの子どもを育てる秘訣

――インターネットやゲームなどのメディアの進化とともに「子どもの活字離れが深刻化」というニュースを耳にするようになりました。そうした時代でも「子どもに本を読んでほしい」と願う親は少なくありません。読書好きの子どもに育てるための秘訣はあるのでしょうか?

子どもが望んだら、どんな本でも否定せずに読ませてあげる姿勢は大切だと思います。何故興味を持ったのかもわかりませんが、小3のときに三浦綾子先生の『氷点』を欲しがって買ってもらったことがありました。当然、幼い私には難しすぎてすぐに積んでしまったのですが、母は文句ひとつ言いませんでした。そうした母の教育方針に「興味があったら、どんな本でも読んでいいんだ」と感じたことを今でも覚えています。あのときに「難しいから無理だよ。他の本にしなさい」と言われていたら、読書熱は冷めてしまっていたかもしれません。親の言葉は、大人が想像する以上に大きな影響を子どもに与えると思います。

――親は子どものことを考えて、ついつい「しつけをしないと」と考えてしまいます。

子どもが何かを「買って」とねだったときに、親がある程度の制限を設けるのは当たり前のことだと思います。ですが、本に限っては「ほしい」と言えば必ず買ってくれたんです。母が「本だけは、どんなときでも望むままに買ってあげよう」と決めてくれていたそうで。残念ながら、私は大学生になっても勉強嫌いを克服することはできず、授業に出ないでキャンパスのベンチで本を読み続けるような学生になってしまったのですが。あの時はさすがに「このままではまずい」と不安で仕方なかったのですが、支えになっていたのは「私は本だけは読んできた」という漠然とした思いでした。一つだけでも自分の人生で「これだけはやってきたな」というものがあるのとないのとでは、その後の人生はずいぶん違う気がします。

――幼少期の読書は大切だと思いますか?

正直、そこまで重要ではないかもしれません。幼少期でも大人になってからでも、読書の楽しさを知るタイミングはいつでもよいのかなと。それよりも幼少期に児童書に出合うことのほうが重要だと思います。『氷点』は子どもでも大人でも手に取る機会があるのですが、児童書って大人になってから出合う機会は少ないんですよね。その違いは大きいと思います。

――確かに大人が自分のために本屋の児童書コーナーに行くことはめったにありません。

児童書は子どもに「知りたい」という気持ちを与えてくれるものでもあります。私が初めてシャーロック・ホームズやモリアーティの存在を知ったのも児童書でした。そこから新たな本、次の一冊を選べるようになるんです。知らない概念や未知の世界を知る喜びは、早い内に獲得しておいた方が人生が楽しくなるかもしれない。そういう意味では子どものころに児童書を読めることは、幸福なことなんじゃないかと思います。

――ありがとうございました。『プロジェクト・モリアーティ』の続編も楽しみです。

続編では杜屋のライバルとなる存在を登場させる予定です。杜屋は「人のためになるなら嘘をついてもいい」という価値観を持っていますが、反対に「真実こそが絶対で大切なんだ」という価値観を持つキャラを考えています。どちらが正しいと表現するのではなく、読んだ子どもたちに判断を委ねることになると思います。初めて児童書を書かせていただいて、子どものころの読書が一番楽しかったことに気がつきました。『プロジェクト・モリアーティ』が子どもたちにとって、そういう本になってくれたらうれしいです

■斜線堂有紀(しゃせんどう・ゆうき)/秋田県生まれ、埼玉県育ち。2017年、『キネマ探偵カレイドミステリー』でデビュー。『恋に至る病』(メディアワークス文庫)、『楽園とは探偵の不在なり』(早川書房)、『愛じゃないならこれは何』(集英社)、『回樹』(早川書房)、『本の背骨が最後に残る』(光文社)など著書多数。4月19日に、初の児童書作品『プロジェクト・モリアーティ 絶対に成績が上がる塾』(朝日新聞出版)が刊行された。

(構成/生活・文化編集部)

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