――3月に、そのはやみねさんと対談をされました。
先生の『少年名探偵 虹北恭助』シリーズ新装版(星海社FICTIONS)が2023年11月から順次刊行されていまして、その2巻の帯文を書かせていただきました。そのご縁で、先生との対談企画に呼んでいただいたのですが、正直、現実の出来事だとは思えませんでした。終始、なんだか自分にとって都合のよい夢なんじゃないかと。先生と対談できるほどの仕事はまだ成し遂げられていないという思いでいっぱいでした。
――対談の中で、はやみねさんが『プロジェクト・モリアーティ』を読んだ感想を「悔しかった」と表現されていたのが印象的でした。
信じられないほどうれしいお言葉でしたが、正直、台本が用意されていて、先生に読み上げさせているのではないかと疑っていました(笑)。本当にありがたいことですが、今は「悔しい」という言葉にふさわしい作家になるために精進しなければと、感じています。作家としての自分に新しい基準が生まれたような気持ちです。
子どもたちに伝えたかったこと
――初めての児童書ですが、どんなことを意識して書いたのですか?
子どものころからダークヒーローが好きだったので、ジェームズ・モリアーティ(アーサー・コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズに登場するキャラクター)を主人公にした話を作ろうということは早めに決めていました。これまでは結末がバッドエンドになる本を多く書いてきましたが、児童書なので読後に希望が残るように気をつけました。
――『プロジェクト・モリアーティ』では、頭脳明晰な主人公・杜屋譲(もりや・ゆずる)と「絶対記憶能力」をもつ和登尊(わと・たける)の二人が”絶対に成績が上がる塾”の謎を解き明かし、傍若無人な塾長と闘う姿が描かれています。二人の奮闘に心を躍らせる子どもたちの姿が目に浮かびます。
天才的な頭脳を持つ杜屋の能力は特出していますが、和登の存在があるからこそ問題を解決できるという相互補完の関係を目指しました。価値観が違う二人が、それぞれの得意分野で協力し合って敵に立ち向かうという構図を作りたかったんです。価値観を一面的に表現しないことも強く意識しましたね。人物や物事は見方によってまるで変わってしまうのだということを、子どもたちに伝えたかったんです。