家族で旅行した際の写真。父親のファルサさん(中央)はイラン出身で、母・郁代さんと米国留学中に出会った/ダルビッシュ有さんは後列中央(写真:ダルビッシュ郁代さん提供)

有からのレアな贈り物

 賢太さんは、術後半年でリンパにがんの転移が見つかり、23年2月から抗がん剤治療を始め、現在、順調に回復しつつある。昨年12月には、アメリカに有を訪ね、ひと時を過ごした。

 その最終日。有から「賢太、ちょっとそこに座っといて」と言われた。一瞬「ひえーっ」と縮み上がったのは、自分が何かをやらかしたのでは?という不安からだ。ところが、そこに有の子どもたちが現れた。

「せーの! 賢太、がん克服、おめでとう!」

 大きな拍手とともに、有から腕時計をプレゼントされた。非常にレアなもので、有自身がほうぼう探して手配してくれて、自分で受け取りに行ったと聞いた。それだけでも嬉しかったが、何より賢太さんの胸を打ったのは有の笑顔だったという。

「僕はがんになったけど、それを特殊な経験をしたってとらえないようにしている」と賢太さん。そのほうが自身を特別視せずに謙虚でいられるからだ。

 がんとの闘いはタフだった。それでも「絶対負けない」「大丈夫」「今しんどいけど、絶対いける。治す」と前を向けた。

 死の恐怖にたじろぎながらも病と闘うこの弟の姿から、恐らく有は何かを感じ取ったはずだ。しかも有の妻・聖子さんの兄である山本KID徳郁さん(享年41)を18年にがんで亡くした。その際自身のブログに義兄との思い出をつづり、最後に「愛してます」と添えている。

マイナスをプラスに

「有にもけがなどの不安は常にあると思う。僕もがんになってすごく不安だった。だけど変な自信があった。翔だって意味のわからん自信を持ってる。有も絶対無理やっていう(試合の)場面でも、おじけづきもしないでケロッとしてる。それは彼女(母)が僕らに与えたものなんです。自己肯定感みたいなものですよね」(賢太さん)

 プロ1年目。母の前では「野球は4、5年でいいや」と自信なさげだった長男は、今や世界トップに君臨する投手のひとりになった。次男は更生の道を真っすぐ突き進む。そして三男は、病と闘いつつ、薪を結わえる針金のごとく力強く兄弟を束ねてくれる。三者三様に、マイナスをプラスに転換させている。

 そんな彼らの強みは母が授けた自己肯定感だ。それこそが試練を乗り越える力に違いない。(ジャーナリスト・島沢優子)

AERA 2024年4月22日号より抜粋

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