クズ芸人キャラが花開く前の粗品は、あまりにもまぶしすぎる経歴を持つお笑い界のスーパーエリートだった。アマチュア時代にピン芸人として関西若手芸人の登竜門と言われる『オールザッツ漫才』(毎日放送)の「フットカットバトル」で優勝。斬新な視点のフリップ芸で爆笑をさらい、圧倒的なセンスを見せつけていた。
せいやとコンビを結成して、2018年には20代の若さで『M-1グランプリ』を制して史上最年少王者となった。直後に粗品はピン芸で『R-1ぐらんぷり』も制して、(当時)史上初の「M-1」「R-1」二冠王者となった。
クズ芸人化は意識的なのか?
ここまでの実績は文句なしの超優等生なのだが、その後、彼はその枠からはみ出すようにクズ芸人化を進めていった。無粋な見方かもしれないが、その動きはある程度は意識的なものではないか。
エリート芸人の粗品に唯一不足していたのは、昔ながらの芸人らしい「悪の香り」だった。彼はそれを自ら補うために、多額の借金を重ねて「マネーエンターテイメント」に身を投じているのではないか。
粗品の借金ネタは、今後もいくらでも大金を稼ぎ続けられる才能の持ち主であると誰もが認めている彼だからこそ許されるような、究極の「体を張った笑い」である。
人間が何かに大金を費やすことを見せるだけなら、YouTubeでもバラエティ番組でもいくらでも前例はある。しかし、粗品は常人離れしたセンスと覚悟によって、それを前代未聞の刺激的なエンタメショーにしてしまった。
芸人にも品行方正が求められる時代に、粗品は今の倫理観や価値観の中で新しい形の型破りな芸人像を体現している。異端のギャンブル芸人が賭けているのは人生という名のチップなのだ。
(お笑い評論家・ラリー遠田)