いま流行りのライフスタイル系雑誌の編集部に異動した35歳の主人公(サブカル男子)と、サークルクラッシャー(しかも美人)の周辺をめぐる、地獄絵図さながらの自意識の攻防戦を緻密に描き出したコミック。主人公が心酔する奥田民生のナンバーに乗せて、憧れと自惚れ、戸惑いと勘違いが無限ループしていく。
渋谷直角の出世作となった『カフェでよくかかっているJ―POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』(!)。その、あまりにイタすぎて泣きそうになるタイトルからもわかるとおり、共通する主題は現代人の心に巣くうやっかいな承認欲求だ。
「私は『理解』より『妥協』がほしい」。男たちを振り回した後に女が吐き出す台詞の数々はたしかに自己中心的でヒドい。けれど、それをWEB上のコミュニケーションに当てはめてみたら?──「『納得』できないからって怒ったり責めたりする」「なんでみんなそんなに他人に干渉しようとするの」。ナナメ上から冷ややかに眺めていた読者もいつのまにか彼らと同様、泥仕合に参加していたことに気づかされるはず。
※週刊朝日 2015年11月6日号