レース中の八日市屋さん[写真:(株)JPF提供]

「全国どこへ行っても他地域の後輩選手からレース後の打ち上げや麻雀のお呼びがかかるんです。おかげさまで若手にいじってもらえるキャラなんで」

フラットな関係

 地域ごとの選手の結束が固く、先輩後輩の上下関係に厳しい競輪界で異質な存在なのだ。そこには八日市屋さんの人柄と、不利な特性もセールスポイントに変えていく生存戦略がある。

「40代になると大上段に構えて、お前ら気をつかえよ、みたいな雰囲気になる方が多いんですけど、僕は違うんです」

 身長が160センチに満たない男性の競輪選手はかなり珍しい。親しい若手からは「ちっちゃいおじさん」と呼ばれている。受け取りようによってはかなり失礼だが、カチンと来ないのか。

「全然。逆にそっちの方が僕としては入っていきやすいし、ちっちゃくて良かったなと思います。可愛がってもらえるって言うとおかしいですけど、20代の選手ともフラットな関係を築けていると思います」

「八日市屋」という苗字も珍しい。子どもの頃はコンプレックスもあったが、今は有り難いと感じている。

「だって48歳の普通のおじさんが、それで名前を覚えてもらえるだけでもおいしいじゃないですか」

 選手が集う場所で八日市屋さんの周りは笑いが絶えない。サービス精神が旺盛でトークも軽妙。アルコールを受け付けない体質にもかかわらず、招かれた飲み会では自分からすすんで杯を重ねる。飲んでは吐いての繰り返し。なぜそんな無茶をするのか。

「僕が酒を飲めないのはみんな知っているから誰も無理に飲めとは言わないんですけど、やっぱり場の雰囲気もあるし、飲むにきまっとるやん、と言って自分から飲みます。呼んでもらえるのは嫌われているわけではない、ということ。そういう人間関係は大事にしたいんです」

何事も前向きに

 後輩にも先輩にも愛されるキャラなのかと言えば、違う。

「先輩には突っかかってきました。昔は結構、理不尽なことが多かったでしょ」

 遠征先での買い出しも、競輪場の整備や先輩が出したゴミの後片付けも後輩が処理するのが当たり前だった。八日市屋さんは唯々諾々と従うのではなく、「年上だからって許されるわけじゃないでしょう」と先輩に苦言も呈してきた。

「生意気だと言われていじめられることが多かったです。押さえつけられたり、説教されたり、怒鳴られたりもしょっちゅうでした」

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