AI(人工知能)の著しい進歩に伴って、「AIに人間の仕事が奪われる」といった話も聞かれるようになった昨今。そんななかで、オムロンは「人と機械がどうすればいい関係を築けるかを」考え続け、そのひとつの形として「機械が人の能力を引き出したり、やる気を引き出す」というコンセプトに行きついた。そしてそれを具現化したひとつの形が、この卓球ロボットだった。

 そのため、このロボットは「対戦目的で作ったものではない」という。ロボットとのゲームは「easy」と「nomal」が選べるが、「easy」は打ちやすい簡単なコースで返球するため、ラリーを楽しむことができる。「nomal」は返球時に多少、左右に揺さぶりをかけるので、技術向上に役立ちそうだ。

 しかし、そもそもなぜオムロンはこのロボットを作ろうと考えたのだろうか。実はもともと「卓球ロボットを作ろう」と思って開発したわけではないという。

「このロボットには、オムロンが研究する技術のシンボルという意味合いもあるんです。オムロンが現在力を入れているのは、人や物を検知する『センサー』と、人に近い微妙な力加減を実現する『制御技術』。卓球ロボットでは、打ち込まれた球のコースを瞬時に感知するセンサーと、それをちょうどいい力加減で打ち返す制御技術が生きています。オムロンの技術力を象徴する、ひとつの形なんです」

 こうした技術はもちろん製品に生かされており、センサーはお年寄りや赤ちゃんを見守るカメラや、車の運転時に飛び出しなどを感知する機能として活用されている。制御技術は、工場などの生産現場のロボットに生かされているという。

 技術の進歩には驚かされるばかりで、時には脅威すら感じることもある。だが使い方次第では、人の能力を伸ばすことも可能だ。卓球ロボットは人と機械の関係性の、ひとつの形を示したものかもしれない。

(ライター・横田 泉)