サミール・アルゴールさん(50)は、妻と5人の子どもと暮らしていた。昨年11月29日早朝、イスラエル軍に急襲される。外で銃声が聞こえ、跳び起きた。2時間に及ぶ銃撃の後「外に出ろ」と命令され、恐る恐る庭へと出ると、そこには近隣住人の遺体が転がっていた。軍は「銃を持ったテロリストが屋内にいる」と主張したが、もちろんそんな人間はいなかった。がれきと化した家を残し軍は去り、一家は一命を取り留めた。
「もう国際社会に何も期待していない」と、ガザ地区で避難生活を続ける友人からメッセージが届いた。彼女は昨年9月に出産したが、赤ん坊の予防接種もままならない。「私たちは、このまま世界に無視されて殺されていくだけ」と、静かな絶望が行間からにじみ出る。ガザでの悲劇は連日報道されている通りだが、西岸地区の状況もまた、絶望と隣り合わせだ。
ジェニンでは、22年に国際的な報道機関の記者も殺されている。多くは伝える人もいないまま、世界の無関心の傍らで、無数の悲劇のひとつとなっていく。その悲痛な叫び声は、誰の耳に届いているのだろうか。(フォトジャーナリスト・佐藤慧)