「住民を広域避難させれば終わりじゃない。戻ってきた後が難しい」

「福祉人材が一気に流出した。地域のケア体制をどう立て直すか」

 2月上旬に、能登半島地震で被災した石川県を訪ねた時、現地の福祉関係者から不安の声を耳にした。

 一方で、地域の復興にあたっては、高齢過疎地ならではの打開策も検討されているという。

 石川県と連携して主に福祉の広域デザイン政策に関わる石川県白山市の社会福祉法人「佛子園」の雄谷良成理事長/公益社団法人青年海外協力協会(JOCA)会長に、震災支援の豊富な経験をもとに今後の構想を聞いた。

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「ごちゃまぜ」をコンセプトとした福祉のまちづくりを実践する社会福祉法人佛子園の雄谷良成理事長(中央)。法人が運営する輪島市の「輪島KABULET」と能登町の「日本海倶楽部」が能登半島地震で被災しながらも、復旧活動に奔走している=2024年1月3日、現地入りしたJOCA救援第一次隊とともに白山市の対策本部で(写真/本人提供)
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住民による「ケアの目」

 もともと高齢過疎地域である珠洲市、輪島市、能登町、穴水町の「奥能登」の福祉・医療サービスは、ギリギリの人員でしのいできました。半島の先端という地理的条件から、周縁の援護を頼みにくい。今回の震災では悪条件が重なり、域内の多くの特別養護老人ホームがいち早く入所者全員を県内外に避難させました。入所者も職員も、戻ってくる見込みが立ちません。

 高齢者デイサービス、訪問看護や介護事業所など、さまざまな機能を持っていた特養が域外に出たことで、地元のケアリソースが一気に失われた。さらには小規模、中規模の事業所も、職員の避難・離職が相次ぎ、つぶれるケースも出てきました。壊滅的な状況といえます。

 高齢化率が約5割の奥能登の場合、恐らく仮設住宅に入ってくる人も高齢者の比率が高いでしょう。福祉・医療の復興には、「地域の支え合いの力」を呼び戻すことが喫緊の課題です。私は県と国が協議する場にも列席しましたが、震災関連死、中でも自死が多かった地震などの教訓から、孤立を防ぐ方策を重視していく方向性が示されました。そこで石川県は、建設中の仮設住宅は「抽選をしない」という方針を立てました。

 というのも、東日本大震災の際に孤独死が起こらなかった宮城県岩沼市のような事例があるからです。ほとんどの地域が抽選で仮設入居を決めていたのに対し、岩沼だけは抽選を行わずに、被災した地区ごとに移したんです。当時私は、青年海外協力協会会長として現地の仮設住宅運営の支援に関わっていました。支援に入った段階で、すでに岩沼には住民の情報が豊富にあったんですね。 「息子さんを亡くされて1人になったから、今いちばん気にした方がいいのはあのおばあちゃん」などというように。地域住民の孤立や体調悪化を未然に防ぐのは、地域コミュニティーの「ケアの目」による情報の力だと実感しました。

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発災前よりも一歩進んだ未来を目指す復興