こうした場を和ませる、ユーモアセンスと対応力、そしてアドリブ力に皇室番組放送作家のつげのり子氏は天皇陛下の「豊かな人間性を強く感じる」と話す。

「天皇陛下について思うのは、どんな人にも分け隔てなく接し、気さくなユーモアにあふれていらっしゃることです。私が取材した人たちは口をそろえて、“あんなにいい人はいらっしゃらない”というほど。誠実で真面目な深い人間性を誰もが話してくれました」

 つげ氏が天皇陛下のユーモアセンスで思い出すのは、中学生時代のエピソードだ。

「天皇陛下は学習院中等科の頃から盆栽がお好きで、ご学友から“じい”というニックネームで呼ばれていました。転校してきた外国人に“My name is G”(マイ ネーム イズ ジィ)とニコニコして語りかけたという話があります。当時から、こうしたユーモアが相手の心を開くきっかけになるのをわかっていらしたのだと思います」

 確かに、「私の名前はじいです」と自己紹介されたら、「じい!?」と聞き返し、ニックネームの由来から盆栽の話まで会話は続くだろう。

「第98回国風盆栽展」を鑑賞する天皇、皇后両陛下と長女愛子さま。天皇ご一家の楽しそうな会話が聞こえてきそうなショット=2024年2月16日、東京都台東区の東京都美術館 代表撮影

 ユーモアだけでなく言葉選びのセンスも感じるとつげ氏はいう。

「言葉選びのセンスという点では、独身時代の皇太子殿下(当時)は記者会見で結婚について記者から“富士山に例えると、いま何合目?”と質問され、“山頂は見えていてもなかなかそこにたどりつけないという感じ”と説明し、記者たちの笑いを誘って、センシティブな話題を明るくかわしていらっしゃいました」

 触れづらい、答えづらいテーマにも関わらず、質問される結婚について、富士山の山登りをイメージさせる言葉で答えられたのはさすがである。

チーズケーキをポロリ

 さらに、印象的なあるエピソードをつげ氏は明かしてくれた。

「2015年に東日本大震災からの復興支援活動を行う岩手、福島、宮城の高校生5人と東宮御所で懇談されました。テーブルには紅茶とチーズケーキが並んでいたそうで、陛下が“どうぞ、どうぞ”とすすめられましたが、緊張からか高校生たちは誰も手を付けられませんでした。

 そこで、陛下は率先して“では、私から食べましょうか”とケーキのお皿を手に持ち、フォークで切り取ったところ、うっかり落としてしまいました。

 わざとだったのか、偶然だったのか……結果的にみんなに笑いが広がり、心が和み、高校生のみなさんも遠慮なくチーズケーキを食べることができたそうです。

 そういうユーモアに包まれた気遣いからは、天皇陛下の明るく、誠実な人間性が伝わってきますよね」

 お誕生日の一般参賀はコロナ禍以降4年ぶりに事前応募の人数制限がなくなった。64歳の天皇陛下のユーモアあふれる明るく楽しい言葉に触れる機会も、ますます増えることだろう。(AERA dot.編集部・太田裕子)

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