エッセイスト 小島慶子

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 ついに……この日が来たんだ! 世の中って本当に、いい方向に変わるんだな(涙)。日本生命の調査によると、今年はバレンタインデーのプレゼントを「職場の人」に渡す予定だと答えた人は調査開始以来最低の14.1%。いわゆる義理チョコは「どちらかと言えば必要ない」「必要ない」と答えた人が合計72.1%。リモートワークの浸透もあり、もはや職場での義理チョコ配りは過去のものとなっているようです(祝)。

バレンタインデーは食のイベントへ。1月中旬、大阪・阪急うめだ本店の催事に有名ショコラティエらが集結した

 この連載でも毎年のように書いてきました。義理チョコ撲滅。あの謎の風習には、日本の職場の歪みが集約していました。しかし世界的にジェンダー平等を推進する流れの中、数年前に外資系菓子メーカーが日本で「義理チョコをやめよう」という革命的なキャンペーンを打ち出したのが転換点。女性著名人たちも賛同しましたが、まだ多くの職場では、やめたいけどやめられなかったでしょう。日本の男女の収入格差は世界でも最悪レベルなのに、女性はなぜか毎年豆まきが終わると手分けして高級チョコレートを買いに行き、小さなカードに連名で「感謝の言葉」を書き、上司や男性同僚らに献上するのです。もともとは「女性がチョコレートを贈って男性に告白する日」という日本の菓子メーカーが発案したストーリーに則っています。形式的とはいえ「私たち、あなたに男性としての魅力を感じて、好意を抱いています」という意思表示の儀式としても機能していたわけです。どうしてそんなことを職場でしなくてはならなかったのでしょう。今では、社内の義理チョコ廃止を進める企業も出てきました。

 性愛絡みの話題は人間関係の潤滑油!という強固な思い込みは、ハラスメントや性差別の温床でもあります。それがやっと変わりつつあるのですね。美味しいお菓子は幸せな時を過ごすため。楽しいバレンタインデーを。

AERA 2024年2月19日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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