『Swingin' Sweet』Maxine Sullivan with The Scott Hamilton Quintet
『Swingin' Sweet』Maxine Sullivan with The Scott Hamilton Quintet

 1985年1月17日、銀座のヤマハホールで催されたスコット・ハミルトン・クインテットのコンサートには多くのオールドボーイが詰めかけたと伝えられる。その目当てはスイング派の若き大物、スコットではなくて、ゲストで同行したスイング期の人気歌手、マキシン・サリヴァンだった。青春の血を滾らせた名花の初来日とくれば熱狂も頷ける。おまけに、73歳という高齢を感じさせないジャズ魂に溢れるステージは故油井正一氏をはじめ、古くからのファンをなおのこと驚喜させたのだった。東京では同クインテットと『サムシング・トゥ・リメンバー・ユー・バイ』(All Art)も残したが、すべて1テイク、3時間で録音し終えたというから、快調のほどとクインテットとの相性のよさが知れる。両者は1986年9月に再来日、「富士通コンコード・ジャズ・フェスティヴァル・イン・ジャパン」に出演した。推薦盤は東京公演の記録だ。その前に彼女の略歴を見ておこう。

 1911年5月13日、ピッツバーグの近郊で生まれ、10代の後半から歌い始める。1937年にニューヨークに進出、自然な歌唱に魅せられたバンドリーダー、クロード・ソーンヒルの肝いりでスコットランド民謡《ロック・ロモンド》ほかを録音した。これが50万枚の大ヒットを記録、一夜にしてスターとなり、“ロック・ロモンド・ガール”と呼ばれる。翌年には伴奏を務めたジョン・カービー(ベース)と結婚、一陣の涼風の如き清新なサウンドで人気を博した彼のセクステットに華を添える。次いで、ハリウッドにも進出、キュートな容姿で人気を呼んだ。1942年に一時引退、44年に復帰すると一流クラブに出演、48年には渡欧する。1954年にも再渡欧、帰国後に引退して看護師に転じたが58年に復帰、60年代には欧米のジャズ祭を巡演、70~80年代には多くのリーダー作を残すなど、逝去の直前まで精力的に活動した。1987年4月7日、逝去。

 クインテットの顔ぶれは初来日時と同じだ。ジョン・バンチ(ピアノ)を除く3人は、スコットが18歳のときに初めて結成したカルテットのオリジナル・メンバーだという。件の14曲目はスコットランド民謡、1曲目と7曲目は1920年代、ほかは30年代のポピュラー・スタンダードだ。3~7曲目と9曲目は『サムシング・トゥ・リメンバー・ユー・バイ』でも取り上げていた。長らく歌い続けてきた自家薬籠中の選曲と言えよう。

 幕開けはインスト・ナンバーで《スウィート・ジョージア・ブラウン》。簡明に快活に畳みかけるバンチ、流麗に吹き連ねるスコットと、快調な滑り出しで期待感を募らせる。ここでマキシン登場。自然な発声で徒な感情移入を排し、軽いフェイクを交えて軽やかにスイングするかと思えばしっとり綴り、極上の一時を紡いでいく。多くが2~3分台で、緩急の配置がよく伴奏陣のソロも適材適所、スイング期の名セッションをも彷彿させる。

 さわやかに流す《生きている限り》、淡いペーソスを醸し出す《ブルースを歌おう》、思い出のよすがをねだって思いを託す《サムシング・トゥ・リメンバー・ユー・バイ》、人生の大先輩ならでは、励ますかのように歌い飛ばす応援歌《苦しみを夢にかくして》、故郷か、はたまた遠い日の恋人の名か、懐かしげに呼びかける《我が心のジョージア》、恋の痛手に健気に立ち向かう《ユー・ワー・メント・フォー・ミー》、人生の哀歓が滲む《今日から百年》、終わった恋を「よくあること」と強がってみせる《ジャスト・ワン・オブ・ゾーズ・シングス》、恋する歓びがはじける《あの娘に夢中》、恋慕の情を切々と綴る《あなたのほかには》、浮気男に三行半を突きつける《チーティン・オン・ミー》、あたりかまわず思いのたけをぶつける《ユーアー・ドライヴィング・ミー・クレイジー》、これなしには幕を下ろせない代名詞《ロック・ロモンド》と、多彩な表情で飽かせない。

 たしかに声の質は老婆のそれだが、歌唱そのものに衰えは見られず、快唱につぐ快唱で聴き手をグイグイ引き込んでいく。小粋で洗練された都会的感覚と軽やかなスイング感、彼女の魅力と円熟味が遺憾なく捉えられている。これが75歳のときの録音とは驚きで、530曲ほどある録音の半数近くも68歳から75歳にかけてのものだ。長持ちが自然な唱法の賜物にせよスーパー婆さんというほかない。推薦盤を迷わず生涯のベストに推す。[次回9/28(月)更新予定]

【収録曲】
Swingin' Sweet / Maxine Sullivan with The Scott Hamilton Quintet

1. Sweet Georgia Brown (inst.) 2. As Long as I Live 3. I Got a Right to Sing the Blues 4. Something to Remeber You by 5. Wrap Your Troubles in Dreams (and Dream Your Troubles Away) 6. Georgia on My Mind 7. You Were Meant for Me 8. A Hundred Years from Today 9. Just One of Those Things 10. I'm Crazy 'Bout My Baby (And My Baby's Crazy 'Bout Me) 11. I Hadn't Anyone till You 12. Cheatin' On Me 13. You're Driving Me Crazy 14. Loch Lomond

Recorded at Kan-i Hoken Hall, Tokyo, on September 28, 1986.

Maxine Sullivan (vo except 1), Scott Hamilton (ts), John Bunch (p), Chris Flory (g), Phil Flanigan (b), Chuck Riggs (ds).

【リリース情報】
1987 LD/VC Maxine on My Mind / Maxine Sullivan with Scott Hamilton Quintet (Jp-King)
1988 CD  Swingin' Sweet / Maxine Sullivan with The Scott Hamilton Quintet (Concord)
1988 CD  Swingin' Sweet / Maxine Sullivan with The Scott Hamilton Quintet (Jp-Concord)
1993 CD  Swingin' Sweet / Maxine Sullivan with The Scott Hamilton Quintet (Concord)
1993 CD  Swingin' Sweet / Maxine Sullivan with The Scott Hamilton Quintet (Jp-Concord)

※このコンテンツはjazz streetからの継続になります。