本書は故森光子の92年の生涯を著名人23人のインタビューなどで構成している。著者は生前の森に取材を申し込んだ。「私自身でさえ知らない森光子の姿を描いてください」との返事をもらい、森を知る人々への取材を開始。本人への初インタビューの前、訃報に接したが、著者は諦めず、一人ひとりの中に“存在”する森光子を聞き出した。
 舞台「放浪記」で孤高の作家・林芙美子を演じ続けた森と共演した浜木綿子や奈良岡朋子、山本學。恋人や姉、家族のように交流した萩本欽一や石井ふく子、黒柳徹子、井上順らの言葉が胸にしみる。テレビドラマ「時間ですよ」で、国民的女優だった森と共演した堺正章は「人に格をつけることなく、自分に対しても格をつけさせることを極力避け、スタッフやキャストみんなと同じ高さでいようと努められた」と語る。
 本書は丁寧に紡がれた著者から森光子への手紙のような感触だ。昭和から平成の時代を生きた彼女の生涯に、自分の人生の折々を重ね合わせる読者も多いだろう。

週刊朝日 2015年8月28日号