1月1日に発生した能登半島地震で、見慣れた光景はすべて奪われた。
【写真】悲惨だけど、美しい…坂口さんが撮った地元・能登町はこちら(全12枚)
それでも、そこに「能登」があると感じた。
「町はめっちゃ悲惨なんですけど、能登の青空や町の空気感、光のきれいな感じは全然変わってなかった」
石川県能登町出身の坂口歩さん(21)は、変わり果てた地元を見て、言葉を選びながらそう話した。
「ひどいんだけど、きれいだなって。そのきれいさが悲しくもあり、救いでもあり……。きれいだと思っていいのかなとか、複雑な気持ちもありました。でも、やっぱり能登って美しい町だなって思ったんです」
何かに突き動かされるように、カメラのシャッターを夢中で切った。そうすることで、自分自身の心が救われていたのだと振り返る。
津波で全身ずぶ濡れになった子どもたち
正月は能登町の実家に家族や親戚が集まって食事をするのが恒例だった。金沢美術工芸大学(金沢市)に在学中の坂口さんも昨年12月29日に実家に帰省。今年もいつもと変わらない時間を過ごしていた。
いとこが帰るのを見送って少しすると、大きな揺れが起きた。
能登地方では近年よく地震が起きていたため、今回も「いつもの地震だ」と重く考えていなかった。だが、すぐにまた地震が起きた。
さっきより大きい、これまで感じたことのない揺れ。家はギシギシと音を鳴らし、今にもつぶれそうだった。着の身着のまま、慌てて外に飛び出した。
「ご近所さんを確認して、みんなで避難することになりました。父と兄はパジャマみたいな格好。車も置いて、家の裏にある高台に向かいました」
少しして、近くの林の奥のほうから、「ドーン」という波の音が聞こえてきた。木がなぎ倒されているのか「バキバキ」という轟音、車のクラクションのような「プープー」という音。すでに携帯電話の電波は途切れ、今何が起きているのか知るすべもない。
「津波きたんかな」
「怖いね」
「大丈夫だよ」
集まった地域の人たちと、そう口々に励ましあった。