一方、救急車を呼ぶということは、「なんとかして助けてください、生かしてください」という救命救急を望むことになります。救急車を呼んだその時点で、医療の力=人の力で親を生かすためのシステムが動き出します。

「延命処置」をどう考えるか

 Aさん夫妻の救急車の要請に、私たちはびっくり仰天してしまいました。自宅でもデイサービスでもいいので、穏やかに自然に最期のときを迎えてもらうのではなかったのか。

 救急車を呼ぶことは「延命処置」になります。延命処置は、例えば胃ろうや点滴による栄養の補給、人工呼吸器の使用などいろいろあります。どこからを延命処置とするかは、人によって考え方がさまざまです。なかには、バックバルブマスク(マスクに付いたバルーンのようなものを使って空気を送り込む)を使った人工呼吸からが延命だとイメージしている人もいれば、自分で食事ができない場合に、介助して食べさせることも延命処置だと考える人もいます。「救命処置」のとらえ方は、家族によっても異なります。

 Aさん夫妻は延命処置をどうとらえていたのだろう。じゅうぶんに話し合ったはずだったが、もっと説明して、延命処置の内容をはっきりさせておいたほうがよかったのだろうか。

「救急車は親族のために呼んだんだね」

 ところが、Aさん夫妻が救急車を呼ぶ理由は、まったく別なところにありました。Aさんは電話口でこう言いました。

「私たちはいい、納得している。けれど、高齢者施設、それもデイサービスで最期を迎えたというのでは、親族が何と言うか……」

 結局、救急車を呼び、私は同乗しておとうさんを総合病院の救命救急外来に運び、病院にAさん夫妻がやってくるのを待ちました。

 救命救急医は高齢者医療に見識のある人で、到着したおとうさんを見て、「本当に救急で処置をするのでいいの?」と私に確認されました。95歳のおとうさんに点滴を入れて、酸素吸入して、しかるべき検査をすれば何らかの異常はもちろん見つかるだろうから治療することになるが、本当にいいのか、との問いかけです。私から、いままでの家族の思いや今回の経緯を説明すると、医師はこう言いました。

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