第27回司馬遼太郎賞が12月1日、筑波大学教授、岡典子さん(58)の『沈黙の勇者たち ユダヤ人を救ったドイツ市民の戦い』(新潮社刊)に決まった。
ナチス体制下でユダヤ人虐殺が進む中、ユダヤ人を必死に守ろうと活動を続けたドイツ人たちを描いた歴史ノンフィクションだ。受賞の理由について選考委員会は、
「ナチスによるホロコーストについては、これまで数多く語られてきた。その多くは被害にあったユダヤ人の側に立ったもので、ドイツ人の中にもユダヤ人を守ろうとして活動を続けた人々がいたことは等閑視されてきた。本書はそうした救援者に焦点をあて、ナチスの迫害から逃れようとした人々と彼らとの間にどのような交流があったかを描きだしている。世界が敵意と分断に直面している今こそ、多くの人に読んでほしい作品である」
と評した。
この作品でとりあげられたドイツ人たちは反ナチス運動をしていた活動家ではなく、ごく一般の市井の人びとである。その数は2万人もいたというから驚きだ。こうしたドイツ人たちは戦後も自分たちから表に出ようとはしなかった。それがタイトルにある「沈黙の勇者」と呼ばれた所以だ。
ユダヤ人を守ろうとするドイツ人もいる一方、もちろん逆に、ユダヤ人をかくまっていることを密告する人もいた。
「人間にはいい部分もあるし、怖い部分もある。極限状態の中で人がどのような選択をするのか、人間ドラマを見るようなドキュメンタリーでもあった」(井上章一・選考委員)