オープンAIのサム・アルトマンCEO(左)と、取締役会により暫定CEOに任命されるもすぐに外されたミラ・ムラティCTO。ムラティはレターに真っ先に署名した=2023年10月、米・カリフォルニア州(写真:アフロ)
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 米・オープンAIのサム・アルトマンCEOの突然の解任劇。社員の9割超が集団退職をつきつけて復帰を要求、わずか5日で返り咲いた前代未聞の騒動の背景を探る。AERA 2023年12月11日号より。

【写真】共同創業者のイリヤ・サツキバーがこちら

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 感謝祭の祝日を翌週に控えたリラックスムードの金曜日の11月17日、シリコンバレーに激震が走った。生成AIのChatGPTを開発したスタートアップ企業「オープンAI」のCEOのサム・アルトマンが、取締役会により解任されたのだ。

「彼は取締役会とのコミュニケーションにおいて真摯な態度に欠けており、リーダーとしての責任を全うできないと判断した」という理由が発表された。

 ちなみに、米国企業で取締役会がCEOを突然解雇することは時々あり、ボードルーム・クーデター、略して「ボードクー」と呼ばれる。本人には事前に知らされず、即日通達、即日解雇がボードクーの定石だ。

 アップル創業者のスティーブ・ジョブズも1985年に取締役会から解任された経験を持つ。

 だが、販売成績が下降し苦しんでいた当時のアップルと違い、アルトマン指揮下のオープンAIは飛ぶ鳥を落とす勢いで業績を上げてきた。今年3月にChatGPTの新しいモデル「GPT−4」を発表したばかりで、オープンAIがIPO(新規株式公開)を実施すれば、企業価値は800億ドル以上だと推測されている。つまり日本円で約12兆円以上の価値がある超ユニコーン企業なのだ。

商品化加速か安全性か

 そんな生成AIの旗手である同社を創業したアルトマンに「解雇」を告げたのは共同創業者でチーフ・サイエンティストのイリヤ・サツキバーだった。

 なぜ苦楽を共にした仲間を急に追い出す必要があったのか?

「商品化のスピードが速すぎる、安全性を確保する対策をもっと重視すべきだとする取締役会のメンバーたちと、商品化をスピードアップしたいサムの意見が対立したのが、恐らく理由のひとつだろう」と語るのは、RBCキャピタル・マーケッツでソフトウェア分野のアナリストを務めるリシ・ジャルリアだ。

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