
アルトマンとマイクロソフトは急遽オープンAIの取締役会にアルトマンの復帰を要求したが交渉は決裂。すると2日後にはマイクロソフトがアルトマンとブロックマンのふたりを自社で雇用すると電撃発表した。
「サムが解雇された理由は直接取締役会からは聞いていない。でも、サムと私たちは、今までもそうだが、これからもずっと共に仕事をしていく」とマイクロソフトCEOのサティア・ナデラはテレビ取材で語った。
「サムを奪還せよ」
その後ドラマは急展開する。オープンAIの社員770人中の740人ほどが「サムを我が社のCEOとして復帰させ、取締役会メンバーが辞任しないなら、我々は集団退職してマイクロソフトに入社する」というレターに実名で署名し、取締役会につきつけた。まるで幕府に血判状を叩きつけるような展開だ。署名レターにはなんとアルトマンに解雇を通達したサツキバーも名を連ね、彼はXに「取締役会の行動に参加したことを深く後悔している」と投稿した。
米国の企業で働くと、仲間が突然解雇される光景を職場で目撃することもある。筆者も体験したが通常は社内中の社員が沈黙して当人に声もかけられない。
まして解雇されたボスを奪還するため社員が取締役会に集団で反旗を翻すなど前代未聞だ。アルトマンへのこの忠誠心は一体どこから来るのだろうか?
「それはサムがビジョナリーだからだ。彼は1〜2年先だけを見ているのではなく、10年先を見据えている。オープンAIの社員たちは金のために動く人々ではない。彼らは技術で世界を変える夢を抱き、サムのビジョンを慕って入社した」と前出のジャルリアは言う。
スタンフォード大学を中退したアルトマンは2014年にアクセラレーター、Yコンビネーターの代表に就任する。世界中から若い起業家たちがシリコンバレーのビルの一室に集まり、ピザの箱やラップトップや寝袋が散乱する中ソフト開発に励み、投資家たちの前で売り込みのスピーチを磨く。製品の開発力はもちろんだが、投資家へのビジョンの表現の仕方やプレゼン力などソフトスキルが問われる場だ。そんな環境で投資家との人脈を築いたアルトマンは、15年にオープンAIを創業後、マイクロソフトのナデラから生成AIの開発に必須な巨額の投資を引き出すなど、その卓越した資金調達能力が注目されてきた。