理化学研究所で発見された113番元素ニホニウムの記念プレートの前に立つ仲真紀子さん=埼玉県和光市の理化学研究所西門前
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 子どもの記憶について研究していたころ、「子どもの供述の信用性はどの程度だろうか」と弁護士から相談を受けた。記録を読んでみると、質問する大人が誘導している。「これじゃいけない」と思って目撃証言の研究を始め、のめり込んだのが心理学者の仲真紀子さんだ。20年ほど前にイギリスで「司法面接」という手法に出合い、それを国内に広めてきた。

 昨年4月から、理化学研究所の理事を務める。2020年に科学技術基本法が改正されて科学技術・イノベーション基本法となり、「科学技術」に人文科学も含めるようになった。「それで文系の私が呼ばれたんだと思う」。担当はダイバーシティ、若手育成、国際、広報。人懐っこい笑顔で忙しく動き回りながら、女性研究者を増やそうと旗を振っている。 (聞き手・構成/科学ジャーナリスト・高橋真理子)

子どもからどう話を聞くか

――司法面接とは、どういうものですか?

 簡単に言うと、被害にあった疑いのある子どもから事情聴取をするときの面接手法です。子ども自身の言葉で話してもらうこと、録音・録画すること、児童相談所の職員や警察官、検察官が連携して面接回数を最小限に抑えること、などの特徴があります。2015年に厚生労働省、警察庁、最高検察庁から通達が出されて、3機関が連携しやすい環境が整い、全国で行われるようになりました。それを受けて、司法面接の録音・録画を裁判の証拠として扱えるように今年、法律も改正されました。

――ほお、社会にどんどん浸透してきているんですね。いつごろから取り組んでこられたんですか?

 1999年にアイルランドで「法と心理学」の国際学会があったんです。私は「いかに子どもが誘導されやすいか」「記憶が変わってしまうか」という研究結果を報告した。そのときイギリスの研究者が「イギリスでも同じような問題があったけど、こうやっているよ」って司法面接のことを教えてくれた。これだ、って思って、まずはイギリスのガイドラインを翻訳しました。

 国際学会に行ったのは千葉大学の助教授のときで、その前に弁護士さんから子どもの供述の信用性について尋ねられたことがあったんです。それをきっかけに目撃研究に引き込まれ、東京都立大学(現・首都大学東京)に移ってからは「子どもからどうやって話を聞けばいいか」という研究を進めました。

 2003年に北海道大学に移り、北大は自由というか、新しいことに対して本当にオープンで、北大と児童相談所が契約を結んで年に3回ぐらい実務家が研修を受けるプログラムができたんです。

――へえ。それは素晴らしい取り組みでしたね。北大は公募ですか?

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