小宮さんが大学入学前の春休みに母親と撮った一枚。お金にはかなり苦労していた
この記事の写真をすべて見る

八王子つばめ塾の設立には、小宮位之氏が目の当たりにしてきた「貧困」が大きく関わっている。幼少期には自身の家庭で貧困を経験し、社会人になってからは世界各地で同様の光景を見た。特に自身が体験した貧困家庭での暮らしは、塾へ通ったことさえなかった小宮氏が、「無料塾」という生き方を選ぶ大きなきっかけとなった。当時の自分の感性を忘れたくない、苦しい生活を送っていた時代の自分から何を言われても恥じない生き方をする。それこそが、著者を「無料塾」に邁進させる原動力となった。『「無料塾」という生き方』(ソシム)より一部を抜粋、編集して掲載する。

【写真】中学2年生のときの小宮氏はこちら

*  *  *

受験直前、記憶をなくした夜

 私が高校3年生の12月、大学受験本番まであとわずかというある夜のこと。自宅で勉強をしていると、襖の向こうから両親の会話が聞こえてきました。

父「そういえば、うちに今、金はいくらあるんだ?」

母「800円しかないわよ」

 わが家は収入の少ない家庭でした。銀行の貯金などほとんどありません。家にある800円は全財産と言ってもいいでしょう。勉強の手は止まり、1人でつぶやきました。「え、800円でこれから一体どうするの」と。そう口走った瞬間に頭の中で何かがパチンと切れた音がして、陸上部のジャージを着ただけの格好のまま、家を飛び出して走りだしました。それから1時間後にゼイゼイと息を切らしながら家に帰ってきたものの、その間の記憶がさっぱりないのです。今でも、どこをどう走ったのか、どの道を通って家まで帰ってきたのか、全く思い出せません。

 いかにわが家の家計が苦しいかという事実を、受験直前に改めて突きつけられた出来事でした。

 私が生まれ育ったのは、そんな貧困家庭でした。

次のページ
「あれ?うちってお金ない?」