AERAの将棋連載「棋承転結」では、当代を代表する人気棋士らが月替わりで登場します。毎回一つのテーマについて語ってもらい、棋士たちの発想の秘密や思考法のヒントを探ります。33人目は、杉本昌隆八段です。AERA 2023年12月4日号に掲載したインタビューのテーマは「私のルーティン」。
【貴重写真】和服じゃない!スマホ片手にデニム姿の藤井聡太さん
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2023年10月11日。藤井聡太は将棋史上初めて、タイトル八冠独占を達成した。その翌々日、藤井とその師匠・杉本昌隆は、名古屋将棋対局場で「凱旋記者会見」に臨んだ。冒頭、杉本は感無量の面持ちで次のように語った。
「タイトルを二つや三つは取る少年だなというのは思っていました。けれども、ここまでの活躍をするというのは本当に予想外でして」
藤井は杉本をはじめ、地元愛知県の人々によって、その才能が育まれた。
「東海の棋士にとっては非常に縁の深いこの会場で、この八冠達成の日を、凱旋記者会見という形で迎えられるのは、一つのこれも運命だったのかもしれません」
杉本の師匠で東海棋界の大黒柱だった板谷進九段(1940-88)には夢があった。一つは将棋会館を建てること。
「(22年に)名古屋将棋対局場ができて、それはもう半分叶っているわけです」
板谷のもう一つの夢。それは一門の棋士が東海にタイトルを持ってくることだった。その夢は孫弟子が叶えた。
「独占してほしいとまでは思ってなかったというか、夢にも思わなかったはずです。お元気だったらさぞかし、驚いて喜ばれたでしょうね」
空前の八冠ロードの中、藤井のスケジュールは多忙をきわめた。師匠の杉本もまた、あわただしい日々が続く。
「地元のテレビだったら藤井八冠より私の方が出演回数は多いでしょうね(笑)。取材依頼も増えた気がします。藤井八冠が誕生し、改めて将棋というものを意識される方が増えたのかなと思っています」