姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史
この記事の写真をすべて見る

 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

*  *  *

 国連安全保障理事会で10月18日、ブラジルが提出したイスラエルとハマスによる戦闘の中断を求める決議案が否決されました。15カ国中、日本や中国など12カ国が賛成しましたが、米国が「イスラエルの自衛権への言及がない」と拒否権を行使したためです。

 イスラエルのパレスチナに対する国際法に反する軍事的侵攻や人道上の迫害を国連の安保理で取り上げても是正措置が取られず、現状が追認されてきたのは、米国による拒否権の行使があったからです。今回の拒否権の行使で、改めて米国とイスラエルが強力なコネクションを持ち、一心同体だったということが可視化されました。

 米国はイスラエル援護に余念がないようです。ハマスを単なるテロ集団と断言できるのか、見方が分かれるでしょうが、たとえイスラエルの自衛権を認めるとしても、それは一定の制約が課されています。すでにこの間、民間人に多大な犠牲者を出しており、「虐殺」という批判があっても否定できないはずです。しかも、水や電気、食料などが途絶したガザは、人道上も看過出来ない過酷な環境に置かれており、そうした包囲網そのものが国際法に違反しています。

次のページ