故・ジャニー喜多川氏による性加害問題は私たちメディアにも大きな問題を突きつけました。本誌編集長が、この問題を振り返り、これからについて考えます。AERA 2023年10月30日号より。
【写真】ジャニーズタレントを一度も起用しなかった元社長がこちら
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故・ジャニー喜多川氏による性加害問題では、未成年の子どもたちを含む数百人が被害に遭うという未曽有の犯罪が半世紀以上にわたり放置されてきました。
絶対権力を持つ立場にある性犯罪者を野放しにしてしまった責任は、ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)だけでなく、私たちメディアにもあると深く反省しています。なぜ「メディアの沈黙」が起きてしまったのか。同じ過ちを二度と繰り返さないために、本誌が「沈黙」してしまった理由を考えます。
1988年に創刊した本誌はかつて長らく、同事務所に所属するタレントたちの取材ができませんでした。
今回、当時を知る元編集部員に話を聞いたところ、97年に本誌が、喜多川氏の独占インタビューを実施し、その際に書かないという前提で聞いた内容を書いたことが発端だったそうです。抗議を受けてやりとりをした際にも関係はこじれ、本誌は、同事務所のタレントへの単独取材はもちろん、記者会見の会場にも入れなくなりました。
99年に週刊文春がジャニーズ事務所告発キャンペーンを行い、2003年の東京高裁判決で喜多川氏の性加害が認定され、04年2月に最高裁で事務所側の上告が棄却されました。
問題を過小評価した
本誌は当時、この問題について報道していません。ただ、このとき本誌はそもそも同事務所所属タレントの取材ができない状態でしたので、「忖度(そんたく)」して取り上げなかったわけではありませんでした。
当時の編集部デスクが振り返ります。
「問題を過小評価していました。想像力不足で、想像を超えた被害に思いが至らなかったことを本当に恥ずかしく思います。週刊文春が取り上げた内容を後追いしてももう追いつかないという意識もありました。また、これは『特殊な芸能界のことだから』という認識があって、本気で取り組まなかったというのもあります」
私自身は、04年4月にAERA編集部に異動してきましたが、当時、企画会議などで喜多川氏の性加害を巡って議論した記憶はありません。当時は喜多川氏の性加害について今ほどに大きな問題として報じられていなかったこともあり、取材すべきニュースとして意識したことがなかったというのが本音です。本来はニュースに敏感になり、加害状況について取材する姿勢が大事だったと思いますが、そうすることができませんでした。本誌が同事務所の所属タレントを取材できない時期だったので、「自分たちの取材対象ではない」というような意識もあったと思います。