性加害に触れておくべきではないか、という思いはありましたが、普段表紙などでお世話になっているという意識が先に立ち、あえて触れませんでした。04年の判決についてはもちろん知っていましたが、性加害は過去のこと、一時のことだと考えていました。あのとき、被害の実態を確かめるべきでした」

 AERAでは数年前まで、同事務所を退所したタレントを表紙に起用し、インタビューも掲載していました。ただ、取り上げた際、事務所から不満を示されたこともあり、問題になるよりは掲載を控えようという意識が働くようになっていきました。

 また、本誌で退所したタレントのインタビュー企画を検討した際には、「他部署も含めお世話になっているので、なるべくハレーションを起こさないように」という社内の意見で踏み切れなかったこともありました。

 そんななかで今年3月にBBCの報道をきっかけに性加害が再び大きな問題となりました。私は、悩ましさはありましたが、タレント自身に罪があるわけではないという思いから、表紙をはじめ同事務所のタレントを取材し掲載することを続けました。その一方で、性加害についてきちんと追及できたかと言えば、会見などの際に報じてはきましたが、十分でなかったことについては反省しています。

 だからこそ、これから私たちは、性犯罪のない社会をつくるために、本誌として何ができるかを考え、報道していきたいと思っています。今回の特集もそんな思いをこめてつくりました。

報道もエンタメも

 そして、取材先との関係が難しいのは、ジャニーズ事務所に限ったことではありません。いかなることに対しても、私たちが報じるべきだと考えることについて、外部の不当な圧力に屈したり、巨大な権力に忖度したりして、報道を控えることがあってはならないと、改めて自戒しています。

 また、報道と同様に、エンターテインメントのすばらしさを届けることも私たちの使命です。タレントやアーティストが、どの事務所に所属するのかなどということは関係なく、作品や楽曲のすばらしさ、存在感、メッセージ性、人気や影響力などを本誌が独自に判断し、読者に伝えたいと思う作品、人、現象などを取材し、記事をこれからも届けていきます。

 報道とエンターテインメントが共存する本誌には、とりわけ難しさがつきまとうと、いま改めて感じています。ただ、私たちの暮らしに、両方ともなくてはならないものです。だからこそ、本誌として両方の記事を誠実に届けたいと思っています。

 ジャニーズ事務所に対しては、被害者の補償や再発防止の実行、過去と決別する体制の確立などを求め、朝日新聞出版として申し入れをしました。今後も取材をしていくに当たって、継続的に働きかけていきます。

 今回の問題をめぐっては、メディアの沈黙が被害を拡大させました。一メディアとして、これからもこの事実を肝に銘じていきます。(編集長・木村恵子)

AERA 2023年10月30日号

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