高僧が厳しい修行の末、自らの肉体をミイラにして土中に残すミイラ仏=即身仏は、現在日本各地に17〜24体(諸説あり)が祀られており、そのうち10体が山形県に安置されているといわれています。
古代山岳信仰の聖地・湯殿山総本寺 大日坊(鶴岡市)にて6月1日に開催される「即身仏 真如海上人の衣替大祭」(6年に一度、丑年と未年だけに実施される祭事)にちなみ、日本古来の「即身仏修行」をひもといてみましょう。

出羽三山の奥宮とされる、修験道の霊地・湯殿山(ゆどのさん)神社本宮の大鳥居
出羽三山の奥宮とされる、修験道の霊地・湯殿山(ゆどのさん)神社本宮の大鳥居
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様々な小説、漫画、映画等で描かれる即身仏

即身仏については様々な小説、漫画、映画等で描かれていることもあり、年齢を問わず日本人であれば、その修行の在り様を知っている人も多いようですが、国外の人からは「理解できない!」といった反応が圧倒的多数を占めるのも事実。
当然ながら、現代ではこのようなことは自殺として禁止されており、協力した場合も自殺幇助として罰せられますが、江戸時代をピークに即身仏なる修行が行われていたことを、日本人なら知っておいて損はないといえるでしょう。

即身仏に至る、何十年にもおよぶ修行の道筋

衣替大祭を控える湯殿山を例にとると、即身仏になるには以下のような修行の道筋が示されているといいます。
一、生前に徳を積み、善行を積み重ねる
二、弟子たちから尊敬され、信者からも厚い信仰を集める
三、雪深い湯殿山に籠もる荒行の「山籠修行」
四、千日単位で繰り返される「千日行」
五、何十年にもおよぶ五穀断ち、十穀断ちの「木食行」
六、己の悟りを開き、生きながら土中の石室に入定
七、土中で鐘を打ち鳴らし、読経によって衆生救済を祈願
八、土中にて息絶える
九、三年三カ月後(千日後)に、土中より掘り出される
十、衣を着せられ厨子に安置され、即身仏として祀られる

理解しがたい、息をのむ過酷さ

前述した修行の道筋をさらに詳述すると……。
三、「山籠修行」を行う湯殿山は雪に閉ざされる山深い場所として知られますが、冬季も年中行衣一重だけを身にまとい、火の使用は不可。
四、「千日行」の間の下山は許されず、修行期間は三年、六年、九年に及ぶことも。
五、「木食修行」では穀物を絶ち、木の実などで命をつなぎながら、体の脂肪や水分などを極限まで落としていきます。
六、「土中入定」では深さ3mほどの穴の中に石室を築き、節を抜いた竹筒の先だけを地上に出して呼吸を確保。その状態で埋められます。
七、「土中入定」後は食事・水分を一切摂取せず、人体には毒である“うるし”を飲み、体への防腐効果を施します。
八、蓮華座で鐘を鳴らしながら、己の身と引き換えに衆生救済を一心に祈願しながら読経を続け、己の悟りを開きます。
このように何十年にもおよぶ過酷な修行を積むことで、息絶えた後も肉体が腐敗することなく、ミイラ仏=即身仏になるとされています。自らの精神と肉体を極限状態にまで昇華させ、自己を捨てて世に尽くすことに集中した真如海上人は、20代で即身仏を志した後、96歳で土中入定。
現在は、湯殿山総本山 瀧水山総本寺大日坊に一世行人代受苦菩薩として祀られています。
※ 「即身仏 真如海上人御衣替え法要」(湯殿山総本寺瀧水寺大日坊)はリンク先参照。
公式HPでは、仏門に一生を捧げた真如海上人の姿も画像で確認できます。