ところが前述したように、カセットテープの存在は見直されつつある。アーティストの中には、あえてカセットテープで作品をリリースするケースもあるという。筆者の知人で、40年来のオーディオマニアは次のように語る。

「カセットテープの音は、適度な雑音があって軟らかいんです。耳当たりがよいと言ってもいい。何度も聞くと、音が劣化していくのも味わいです。なによりも、取り扱いが簡単だということも特徴ですね。40代以上の人で少し物持ちが良い人なら、若い頃のカセットテープの何本かは残っているんじゃないですか。よほどの湿気に晒されていなければまだ十分に聞けると思いますよ」

 また、最新の電子機器を使いなれない高齢者にもカセットテープは人気だという。とはいえ、最近はカセットテープを再生する機器も少なくなっている。そこで、カセットテープの音源をMP3に変換してUSBメモリに保存してくれる機器、逆にBluetooth経由でカセットプレーヤーの音を最新のオーディオ機器で再生してくれる機器も販売されている。

 そして、先述のオーディオマニアによると、カセットテープにはオーディオ用以外に大きなニーズがあるという。

「古いパソコンマニアにとって、カセットテープはデータストレジなんです。昔のパソコンはゲームをするにもカセットテープからデータを読み込んでいた。そもそも、磁気テープ自体、コンピューターの記録メディアとして広く使われていました。それが最近ではIBMなどでもカセットテープ復権という話があるようです」

 カセットテープはHDDよりも頑丈な記録メディアとして、改めて注目されているというのだ。しかも、HDDと違い、保存しておくだけなら電気コストもかからない。一説にはHDDの数分の一のコストだという。ビッグデータ時代、大量のデータを保管するのにカセットテープは最適のメディアだというのだ。

 カセットテープは、ビッグデータ時代に復権するかもしれない。それだけではなく、ただ音を記録するのではない、その面倒くささや手間ひま、その時の気持ちまで記録してくれる媒体として、これからも息づいていく可能性がある。

(ライター・里田実彦)